企業ブランディングを体現するオフィスデザインとは?|想いを伝える空間デザイン事例

ふとした会話が生まれ、企業らしさが息づくオフィスにしたい−−。
CO2排出量の可視化・削減支援をするプラットフォーム「e-dash」を開発・運営するe-dash株式会社は、そんな想いを胸にオフィスづくりに踏み切りました。
理想のオフィスは、一体どのようにつくられたのでしょうか。
e-dash株式会社 代表取締役社長の山崎冬馬さんとworkkitのプロジェクトマネージャー・永沼小春が、オフィス完成までのプロセスを振り返ります。
(Profile)
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e-dash株式会社
代表取締役社長
Toma Yamasaki
早稲田大学大学院修了後、三井物産株式会社に入社。発電・新規インフラ案件開発及びM &Aを担当。
シリコンバレー駐在中、クリーンテック分野のスタートアップへの投資と共同事業開発に従事。
2022年にe-dash株式会社を設立し、企業の脱炭素経営をリードしている。

Toma Yamasaki
早稲田大学大学院修了後、三井物産株式会社に入社。発電・新規インフラ案件開発及びM &Aを担当。
シリコンバレー駐在中、クリーンテック分野のスタートアップへの投資と共同事業開発に従事。
2022年にe-dash株式会社を設立し、企業の脱炭素経営をリードしている。
(Profile)
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株式会社ヒトバデザイン
プロジェクトマネージャー
Koharu Naganuma

Koharu Naganuma
顔を合わせても誰か分からない|コミュニケーション課題からはじまったオフィスづくり

−−まず、オフィスを移転した経緯について教えてください。
山崎さん(以下、山崎):創業以来、シェアオフィスを利用していましたが、社員数が増えるにつれて座席が足りなくなっていて。共有スペースで顔を合わせても同じ会社の人だと気づかないこともあり「そろそろ限界かな」と感じていました。社内のコミュニケーション不足も気になっていたので、自分たちのオフィスを構えようと決断しました。
−−新しいオフィスにはどのようなことを希望されましたか?
山崎:希望したのは、みんなが気軽に集まり、自然と会話が生まれるようなオープンなスペースです。思いがけない交流が生まれる場にしたいという想いがありました。なかでも、とくにこだわったのが、バーカウンターです。コミュニケーションハブとして、どうしても取り入れたかった要素のひとつでした。
あわせてお客様とのエンゲージメントを深めるために、イベントやセミナーを開催したかったので、広い空間もお願いしました。
永沼:それと、企業ブランディングもかなり意識されていて、企業理念として掲げる「環境配慮」や、コーポレートアイデンティティである「疾走感」を空間に反映したいとおっしゃっていました。
山崎:そうそう、よく覚えていますね。
永沼:採用強化も大きなテーマだったため、「この会社で働いてみたい」と思ってもらえるような、そして社員のみなさんが「居心地よい」と感じられるようなオフィスを求められていました
“想い”を空間で語る|開放感・環境配慮・疾走感に込めた意味

−−それらの要望を受けて、永沼さんはどのように提案されましたか?
永沼:コミュニケーションが自然に生まれる空間と、企業ブランディングの実現が今回のミッションでした。そこで、「開放感」「環境配慮」「疾走感」をキーワードに、デザイナーと一緒に考えたコンセプトが「広場と舞台」です。人と人が交差し、関係性が育まれる場にしたいといった想いを込めました。執務やイベントが行えるオープンな空間を“広場”、セミナー用に一段高くしたスペースを“舞台”に見立てています。
山崎:最初にご提案をうかがったときに、すぐに空間が想像できたのを覚えています。段差の手前でイベントが開かれ、その向こうの窓には新宿の夜景が広がっている。そんな光景が自然と頭に浮かんできたんです。
永沼:環境配慮については、単に再生素材を使うよりも、上質な家具を手入れしながら長く使った方が、サステナブルではないかとご提案しました。山崎さんと一緒にショールームをまわり、座り心地を確かめながら椅子を選んでいきました。
山崎:「上質なものを長く大切に使う」という考えに強く共感しました。椅子を選ぶ時間は本当に楽しかったですね。
永沼:家具に対する想いやデザインへの考え方に、山崎さんが共感してくださったことが、非常に嬉しかったです。
−−疾走感はどのようにデザインに落とし込まれましたか?
永沼:入口正面の棚はe-dashさんのロゴをモチーフにデザインしました。さらに、天井の照明で疾走感を表しています。当初、照明は一直線に並べていましたが、「もっと疾走感が欲しい」と山崎さんからの一言を受けて、ランダムな配置に変更しました。
山崎:照度もしっかり検証していただいたので、デザイン性と実用性の両立が叶い、イメージ通りの空間に仕上がりました。


“コミュニケーションが生まれる場”をデザイン|バーカウンターの配置がもたらす効果
−−このプロジェクトを進めるにあたり、悩まれたことはありますか?
山崎:バーカウンターの位置をどうするか悩みましたね。考え得るすべてのパターンをデザイナーさんが考えてくださったので、納得のいくまで検討できました。
永沼:エントランス付近に置いてアイキャッチとして活用する案もありましたが、せっかくの眺望を遮るのはもったいないなと。最終的にはセミナーエリアとワークエリアを分ける機能も兼ねて、中央に配置する案に決まりました。
山崎:プライベートからパブリックへと緩やかに切り替わる場所ですよね。空間全体のアクセントにもなっていますし、実際、とても使いやすい。ミーティングやランチに使ったり、イベントのときはみなさんとお酒を楽しんだりしています。
永沼:天井も一部スケルトンにして、空間の切り替わりをより印象づけつつ、開放感も演出しました。
山崎:バーカウンターはe-dashのアイコンであり、コミュニケーションの中心となる重要な場所になりました。月に一度の社内懇親会の際も、みんなが自然とここに集まります。いつかオフィスを移転したとしても、このバーカウンターの存在はきっと忘れないと思います。

アートにコーポレートアイデンティティを託して|企業ブランディングの新たな表現

−−このプロジェクトを進める中で、印象に残っているエピソードはありますか?
永沼:会議室の絵画を探したことです。山崎さんのお好きなアーティストに直接依頼したのが、印象に残っています。
山崎:実は僕、建築学科出身でして、インテリアやアートに以前から関心があったんです。疾走感を表現するなら、馬を描かれているあのアーティストしかいないと思い、永沼さんにご相談しました。すぐに連絡を取ってくださり、一緒にその方のアトリエを訪ねたのですが、想像以上の迫力で(笑)。
永沼:かなりダイナミックでしたよね。
山崎:そのアーティストの方いわく、馬は等身大でしか描かれないそうで。あまりの大きさに「これはさすがに会議に集中できないかも」と、別シリーズをお願いすることにしました。躍動感のあるダンサーの絵を7〜8枚描いていただき、その中から4枚を選ばせてもらいました。
永沼:4枚それぞれに違う動きがあって素敵ですよね。クライアント様からのご発案で、アーティストに絵を依頼するのは珍しく、私にとっても貴重な経験になりました。
山崎:そう言っていただけると嬉しいです。


いいオフィスの正体|五感に響く、“e-dashらしさ”

−−完成したオフィスの感想を教えてください。
山崎:素敵な空間に仕上がりました。社員はもちろん、お客様や面接にいらした方まで、みなさん「いいオフィスだね」と言っていただけるのが、とても嬉しいです。僕たちは「活気がありつつも落ち着いたスタートアップ」という共通認識を持っているのですが、その雰囲気が空間にも表れていると感じます。「いい香りがする」とよく言っていただけるところも、ちょっとした自慢です(笑)。
永沼:香りにもこだわりましたからね。何かを諦めたり、妥協したりすることなく、山崎さんのご要望をしっかり形にできたと思います。細部まで突き詰めて、丁寧につくり上げた空間なので、私自身にとっても思い入れ深いプロジェクトになりました。
山崎:想像以上の仕上がりで非常に満足しています。僕が考えていたコンセプトを、さらにブラッシュアップして、具現化していただきました。このオフィスに訪れるすべての方にe-dashらしさが伝わっていると自負しています。

−−最後にworkkitとプロジェクトを進めた感想を教えてください。
山崎:自分が空間デザインを考えるのが好きということもあり、とても楽しく、貴重な経験になりました。ご提案のクオリティも素晴らしかったですが、それ以上に僕たちの要望を丁寧に汲み取り、解釈してくださる姿勢に感動しました。workkitにお願いして、心の底からよかったと思っています。
近年、企業ブランディングの一環として、オフィスデザインを取り入れる企業が増えています。
社員には企業理念や価値観を、来訪者にはブランドイメージを語りかける空間として——。
オフィスは「働く場所」という枠を超えて、企業のあり方を体現し、目指す未来へと導く存在になりつつあります。