フリーアドレスとは?導入のメリットや注意点、レイアウト事例を解説
近年、多様な働き方に対応するため、フリーアドレスを検討する企業が増えています。
しかし「どのようなレイアウトにすればよいかわからない」「運用面での課題が気になる」「実際に使いこなせるのか心配」など、検討に慎重な企業も少なくありません。
そこで本記事では、フリーアドレスの種類、導入のメリットや注意点についてわかりやすくご紹介します。
フリーアドレスのレイアウト導入事例も解説しているため、フリーアドレスの導入や自社に最適なレイアウトを見つけたい方は、ぜひ参考にしてください。
フリーアドレスとは?

フリーアドレスとは、社員一人ひとりに固定席を設けず、空いている好きな席を自由に選んで働くスタイルのことです。
従来の部署ごとに座席を固定するのではなく、その日の業務内容やチームメンバーなど状況に合わせて席を選べるため、コミュニケーションの活性化や柔軟な働き方の実現につながります。
もともとはIT企業やベンチャー企業を中心に広がった働き方ですが、テレワークの普及をきっかけに、オフィスの使い方を見直す企業が増えています。
「日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ」の調査によると、2024年4月時点でフリーアドレスを導入している企業は50.6%に達しており、今後はより多くの企業で導入が進んでいくでしょう。
フリーアドレスの種類
フリーアドレスには、おもに3つの運用スタイルが存在します。
運用スタイルごとの特徴や違いは、下記表の通りです。

それぞれにメリット・デメリットがあるため、特徴を理解したうえで、自社の働き方や組織体制に合ったフリーアドレスを導入することが大切です。
フリーアドレスの代表的なレイアウト

本章では、フリーアドレスの代表的なレイアウトを5つご紹介します。
それぞれの特徴を理解し、自社の業務スタイルやチーム構成に合わせて最適なレイアウトを検討してみましょう。
1. 対向型
対向型は、デスクを向かい合わせに配置し、向き合って作業するレイアウトのことです。
従来の固定席に近い配置で、同じ部署やチーム内のコミュニケーションを活性化させたい場合に効果的でしょう。
ただし、社員同士の距離が近く部署内で話を完結させやすくなるため、部署との交流は起こりにくい課題もあります。
また、集中力の維持やプライバシーへの配慮も必要です。
状況に応じて、他部署との接点を作る、個々の作業環境を調整するなどの工夫が求められます。
2. 同向型
同向型は、すべてのデスクを同じ方向に配置するレイアウトです。
向かい合う相手がいないため、対向型に比べて集中力を維持しやすく、個々の作業効率やプライバシーを確保しやすいでしょう。
その一方で、部署やチーム間のコミュニケーションが生まれにくくなるため、共有スペースの設置や定期的なミーティングの開催など、交流を促進する対策が欠かせません。
3. 背面型
背面型は、社員が背中合わせになるようにデスクを配置するレイアウトです。
プライバシーを確保しながら、必要に応じて周囲とコミュニケーションを取れます。
パーテーションを活用すれば、隣席との視線を区切り、作業ブースのような環境で業務に集中しやすくなるでしょう。
ただし、ほかの座席とのコミュニケーションがやや取りづらくなるため、チーム単位の連携や部署全体の動きが必要な場合は慎重に検討する必要があります。
社員同士の交流が遮られすぎないよう、別途コミュニケーションの場を設けるなどの仕組みづくりが重要です。
4. ベンゼン型
ベンゼン型は、六角形のベンゼンを基本形とし、Y字型や円形のデスクなど複数のユニットを組み合わせて形成するレイアウトです。
背面型に近い構造で、集中して業務に取り組みやすく、チームや部署としての連帯感も生まれやすい特徴があります。
ユニットを超えたコミュニケーションは取りにくくなる傾向にあるため、グループアドレスとして導入する際に活用しやすいでしょう。
また、特別な形状のデスクや家具を用意すること、オフィスのレイアウト次第ではスペースの再構成が求められることから、コストや手間がかかるという点に注意が必要です。
5. ブース型
ブース型は、オフィス内に小さな個別スペースを設置し、周囲の影響を受けずに集中して作業できるレイアウトです。
少人数での対話ができるブースや、集中業務やオンラインミーティングに適した個人ブースなど、用途に応じて使い分けることができます。
ただし、空間が区切られブース外の社員との交流はやや取りづらくなるため、部署や部門を超えた交流を目指す場合は、全席をブース型にしないほうがよいでしょう。
フリーアドレスを導入するメリット

次に、フリーアドレスを導入することで得られるおもなメリットを5つご紹介します。
メリットを理解することで、導入後の効果を具体的にイメージしやすくなるでしょう。
1. オフィスコストの削減
フリーアドレスを導入すると、社員全員分の固定席をかならずしも用意する必要がなく、省スペース化とオフィスコストの削減につながります。
テレワークと組み合わせて出社率を調整すれば、オフィス面積をさらに抑えられる可能性もあります。
また、外回りが多い営業部門や、ミーティングなどで席を離れることが多い企画部門では、空席になりがちなスペースを有効に活用できるでしょう。
2. コミュニケーションの活性化
フリーアドレスを導入すると、社員が日ごとに異なる席に座るため、部門を超えた交流が自然と生まれやすくなります。
ちょっとした会話や雑談から気づきが得られることもあり、アイデア創出にもつながることがメリットです。
また、直属の上司や部下とのコミュニケーションのきっかけも増えるため、社内の情報共有や協力関係の強化が見込めます。
他部署との交流を活性化したい場合は全席フリーアドレスとブース型の組み合わせ、部署内のチームワークを高めたい場合はグループアドレスと対向型の組み合わせなど、目的に応じてレイアウトを調整できる点もポイントです。
3. 生産性の向上
フリーアドレスを導入すると、社員がその日の業務内容に合わせて最適な場所を選べるため、生産性の向上が期待できます。
業務に集中したいときは個人ブースや人が少ない座席を選ぶ、コミュニケーションを取りたい場合は共同スペースを利用するなど、業務に応じて柔軟に働けるようになるでしょう。
また、業務内容に合わせてレイアウトを工夫することで、より快適で働きやすい環境を整えられます。
その結果、社員の満足度やモチベーションが高まり、組織全体のパフォーマンス向上に役立ちます。
4. 組織変更への柔軟な対応
フリーアドレスを導入すると、部署の統廃合や人員の異動といった組織変更にも柔軟に対応できるようになります。
固定席では、配置換えのたびに大規模なレイアウト変更や引っ越しが必要ですが、フリーアドレスなら座席を固定しないため、スペースの再配置もスムーズです。
新しいチーム編成にもすぐに対応できるほか、プロジェクトごとにメンバーを集めて柔軟に運用できる点も魅力です。
変化の多いビジネス環境においても、スピーディーに体制を整えられるため、組織全体の機動性向上につながるでしょう。
5. 企業イメージの向上
フリーアドレスを導入したオフィスは、開放的で洗練された印象を与えやすく、企業のイメージアップにつながります。
自由度の高いレイアウトやデザイン性のある空間は、来訪する顧客や取引先にもポジティブな印象を与えるでしょう。
また、柔軟な働き方を実現できる環境として、求職者からの注目度も高まります。
特に、若い世代は「働き方改革に積極的な企業」や「先進的な企業文化」を重視する傾向があり、フリーアドレスの導入は採用活動においても有利に働くといえます。
フリーアドレスを導入する際の注意点

自社にあった適切なフリーアドレスを導入しないと、生産性やモチベーションの低下を招くおそれがあります。
導入を検討する際は、本章でご紹介する注意点についても理解を深めておきましょう。
1. 社員の状況を把握しづらい
フリーアドレスでは、社員が日によって座る場所を自由に選ぶため、誰がどこにいるのかを把握しづらくなります。
その結果、在席状況や出社率を管理しにくく、チームメンバーの状況に気づきにくくなる可能性があります。
特に、新人や業務に行き詰まっている社員へのフォローが遅れるおそれがあるため、上司や同僚とのコミュニケーションを意識的に取る体制づくりが重要です。
また、社員の居場所を可視化できるツールや、報連相を円滑に行うためのオンラインチャットなどを活用し、連携しやすい環境を整えることが求められます。
2. 集中力が低下しやすい
フリーアドレスは人の出入りが多く、会話や電話の声などが聞こえやすいため、集中力が低下しやすい環境になりがちです。
また、毎日異なる席に座ることで、周囲の環境に慣れるまで時間がかかり、業務に集中するまでの立ち上がりが遅くなるケースもあります。
集中力の低下は生産性の低下にもつながるため、注意が必要です。
静かな環境で作業に取り組みたい社員のために、個室ブースや集中スペースを設けるなど、業務内容や個人の特性に合わせた空間設計が大切です。
3. 書類など持ち物の管理がしづらい
フリーアドレスを導入すると、社員は自分専用の席に書類や資料を保管できなくなります。
特に業務の多くを紙ベースで行っている場合、席を移動するたびに書類を持ち運ぶ必要があり、社員の負担になることもあるでしょう。
また、書類を何度も移動させることで、重要書類の紛失や情報漏洩のリスクが高まります。
フリーアドレス制を採用する際は、ペーパーレス化の推進やデジタルツールの活用、パーソナルロッカーの設置など、持ち物管理を効率化する工夫が重要です。
フリーアドレス導入を成功に導く3つのポイント

続いては、フリーアドレスの導入を成功に導く3つのポイントをご紹介します。
ポイントを押さえ適切に導入することで、社員が快適に働ける環境を整えつつ、フリーアドレスのメリットを最大限に引き出せるでしょう。
1. 社員への理解を得ながら導入方針を定める
フリーアドレスの導入を進める際は、まず社員への理解を得ることが重要です。
なかには「自分の席がなくなるのではないか」「部下の居場所が把握しづらくなるのではないか」など不安を抱く社員もいるでしょう。
導入の目的や方針、メリットを明確に示し、社員の意見や要望を反映させながら検討を進めることで、抵抗感を減らしスムーズに移行できます。
2. 目的に沿って導入するレイアウトや部署を決定する
導入方針を定めたあとは、コミュニケーションの活性化、空間の有効活用、柔軟な働き方の促進など、目的に応じて最適なレイアウトを検討することが大切です。
たとえば、部署間の交流を促したい場合は対向型を、集中作業が必要な場合はブース型を採用するのが効果的です。
状況に応じて複数のレイアウトを組み合わせるのもよいでしょう。
また、業務の特性に合わせて導入部署を決めることで、社員が仕事をしやすい環境に整えられます。
外出の多い営業部門や企画部門はフリーアドレス、経理や管理部門は固定席にするなど、段階的に導入することでスムーズに運用できます。
導入後も定期的にアンケートやヒアリングを実施し、改善点を反映することも成功のポイントです。
3. 運用が維持できる仕組みを作る
フリーアドレスを導入しただけでは、社員が不便さを感じる可能性もあるため、運用を維持するための仕組みづくりが欠かせません。
仕組みづくりの一環として、ICTツールの導入が効果的です。
たとえば、社員の居場所や空席状況を確認できる座席管理システム、ペーパーレス化を促進するクラウドストレージ、連絡や情報共有を円滑にするコミュニケーションツールなどが挙げられます。
ICTツールを活用することで、フリーアドレスのメリットを最大限に引き出し、円滑な業務運用が可能となるでしょう。
さらに、必要に応じてルールやマニュアルを整備し、社員が安心して利用できる環境を整えることも大切です。
フリーアドレスのレイアウト導入事例【3選】
本章では、空間デザイン会社である「workkit」が実際に手掛けた、フリーアドレスのレイアウト導入事例を3選ご紹介します。
画像付きで解説しているため、フリーアドレスの導入や具体的なレイアウトを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
事例1:マイポックス株式会社

「マイポックス株式会社」の広々とした執務エリアには、用途に応じて使い分けられる多様なワークスペースを配置しています。
カジュアルな打ち合わせができるソファ席や、集中して作業に打ち込める個別デスクなど、社員がその日の業務内容に合わせて最適な場所を選べる環境を整備しました。

また、個人用ロッカーを設けることで、フリーアドレスに対応した機能的な空間づくりも行っています。
オフィスを見渡せるひな壇席は、日常的なコミュニケーションに加え、会議やセミナーの場にも活用でき、人が集まる場としての役割も果たしています。

自由な働き方を支えるレイアウトにより、チーム間の連携強化と生産性向上を両立した事例です。
フリーアドレスデザイン事例:「マイポックス株式会社」
事例2:NTTデータ

「NTTデータ」のオフィスでは、オープン席とボックス席の双方を採用したフリーアドレスのレイアウトが特徴です。
固定席とは別にカフェラウンジを設けることで、業務内容や気分に合わせて、最適な座席を選択できるようになっています。

また、カフェスペースも設けており、リラックスした雰囲気の中で情報交換や打ち合わせを行うことが可能です。
さらに、ホワイトボードが配置された座席もあり、簡易的なミーティングやブレインストーミングの場(複数人でアイデアを自由に出す)として活用できます。

多様なワークスペースにより、社員が柔軟に働ける環境を実現するとともに、コミュニケーションの活性化や生産性向上にもつながっています。
フリーアドレスデザイン事例:「NTTデータ」
事例3:味の素株式会社

「味の素株式会社」では、壁のないオープンな環境をベースに、さまざまなワークスポットを配置しました。
集中作業用の席やボックスソファ、テントを模したリラックススペースなど、多様な働き方を支えるワークエリアを用意しています。

また、個人の荷物を整理できる収納ユニットも設置しており、オフィス内で快適かつ柔軟に作業が可能です。
一部のデスクは形や向きを自由に変えられる設計で、プロジェクト単位で席をまとめたり、移動式ホワイトボードと併用して気軽なミーティングにも対応できたりします。

社員一人ひとりの働き方や用途に応じた自由な選択を可能にするレイアウト設計により、快適なオフィス空間と生産性向上を両立しています。
フリーアドレスデザイン事例:「味の素株式会社」
自社に最適なフリーアドレスのレイアウトを見つけよう
フリーアドレスの導入には、生産性の向上や部署を超えたコミュニケーションなど、さまざまなメリットがあります。
しかし、ただ導入するだけでは十分な効果が得られない可能性があるため、社員の声を聞きながら導入方針を定め、目的に合ったレイアウトにすることが大切です。
ICTツールを導入することで、社員満足度を高め、より快適な作業空間を実現できるでしょう。
「workkit」は、オフィスやスクール、商業施設など、人が集まる空間の企画からデザイン、施工まで手がける空間デザイン会社です。
本記事でご紹介した事例以外にも、さまざまなフリーアドレスのレイアウト導入実績があります。
フリーアドレスの導入を検討している企業は、ぜひworkkitまでお気軽にお問い合わせください。