原状回復工事とは?工事区分や進め方・費用を抑えるポイントを解説
原状回復工事とは、オフィスを退去する際に必要となる工事です。
しかし「原状回復工事とは何をすればよいのか」「費用はいくらかかるのか」と悩む経営者も少なくありません。
契約内容や工事区分によって費用や範囲が大きく異なるため、事前にポイントを押さえ、無用なトラブルを避ける準備が大切です。
そこで本記事では、原状回復工事の特徴や依頼の流れ、費用相場や費用を抑えるポイントまでを分かりやすく解説します。
オフィス移転をスムーズに進めたい方は、ぜひ参考にしてください。
原状回復工事とは?

「原状回復工事」とは、賃貸オフィスなどを退去する際に、入居前の状態に戻すために行う工事です。
国土交通省では、原状回復を「借主の使用によって生じた損耗のうち、通常の使用を超える部分を修復すること」と定義しています。
賃貸オフィスやマンション、アパートなどの賃貸住宅では、原状回復の範囲が異なります。
賃貸住宅の場合は、通常の損傷や経年劣化は原則として貸主負担となるケースが一般的です。
一方、賃貸オフィスでは、契約内容に基づき借主が原状回復費用を負担するケースが多く見られます。
工事範囲や費用負担の内容は賃貸契約書に記載されているため、契約時に確認しましょう。
原状回復工事の範囲と内容
オフィスを退去する際は、入居時の状態に戻す工事が求められます。
詳細は契約内容により異なりますが、一般的には次のような作業が対象です。
| 工事区分 | 主な作業内容 |
| 家具・備品の撤去 | 照明器具、電話配線、看板、電源タップなどの撤去 |
| 床工事 | 床材やカーペットの張り替え、フローリングの再塗装 |
| 壁工事 | 壁紙の張り替え |
| 天井工事 | 天井ボードの張り替えや補修、再塗装 |
| 造作物の撤去 | 造作家具、カウンター、間仕切りの撤去 |
| クリーニング | 照明器具やエアコン、窓などの清掃 |
また、天井や壁のコンクリートが露出した「スケルトン物件」の場合、契約書に従い元のスケルトン状態(内装や設備が一切施されていない状態)に戻さなければならないケースもあります。
原状回復工事の範囲や内容によって工事費用は大きく変動するため、事前に契約書を確認し、必要に応じて工事の見積もりを依頼しましょう。
原状回復工事の工事区分
工事区分はA・B・Cの3種類があり、工事の対象となる躯体や設備、さらに「費用の負担者」「業者に発注する者」「業者を選定する者」が区分ごとに異なります。
各工事区分の大まかな違いは以下のとおりです。

責任や負担の範囲が異なるため、事前に物件の工事区分を確認しておきましょう。
A工事
「A工事」とは、貸主が施工会社を選定し、工事費用を負担する工事を指します。
工事の対象となるのは、建物の外壁や屋上、エレベーター、トイレ、エントランスなど、共用部分の修繕やメンテナンスが中心です。
建物のオーナーが業者選定から発注、費用まで一括して負担するため、入居者が直接関与するケースはほとんどありません。
B工事
「B工事」は、貸主である建物のオーナーが発注を行い、借主である入居者が費用を負担する工事です。
賃貸オフィスの原状回復工事では、B工事が多い傾向にあります。
工事の対象となるのは、空調や照明、防災設備、配電盤、給排水管など、建物全体に関わる設備が中心です。
B工事は発注者と費用負担者が異なるため、工事内容や費用の範囲、工期や予算の変更などをめぐるトラブルが多い点に注意しましょう。
C工事
「C工事」は、借主である入居者が施工会社の選定から工事費用までを一貫して負担する工事です。
工事内容は、什器やLANケーブル、電話線などの配線工事、内装工事などが該当します。
C工事は貸主を経由せずに進められるため、施工業者とのコミュニケーションがスムーズで、費用や工期を柔軟に設定できる点が特徴です。
原状回復工事におけるC工事は、テナント専用部分の修繕や改装を借主自ら管理できる工事といえるでしょう。
原状回復工事を円滑に進めるためのチェックポイント【3選】

原状回復工事をスムーズに進めるためのチェックポイントを3つ紹介します。
事前に詳細を確認しておけば、工事中のトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
1. 原状回復の範囲は契約内容に従う
原状回復工事を円滑に進めるには、まず契約書の内容確認が大切です。
原状回復の範囲や指定された施工業者など、契約書には工事に関わる重要な事項が記載されています。
事前に契約内容を把握すれば、工事トラブルの発生を防げるため、無駄なくスムーズに工事を進められます。
契約書の内容に不明な点があれば、貸主への問い合わせで事前に確認しておくと安心です。
2. 指定業者以外に依頼できるか確認する
原状回復工事を進める際は、契約書に施工業者の指定があるかもチェックしましょう。
借主が施工業者を選定できれば、業者とのやり取りがスムーズになり、費用や工期を柔軟に設定できます。
ただし、指定業者に依頼した場合、見積もり内容や工事費、施工スケジュールが希望と合わず、契約上の合意に至らないケースもあります。
契約書に指定業者が記載されている場合は、ほかの業者に依頼できないか、貸主に相談してみるのもよいでしょう。
3. 原状回復工事が可能な曜日や時間を把握する
原状回復工事を円滑に進めるには、工事が可能な曜日や時間の把握も大切です。
オフィスの立地や工事箇所によっては、周囲への影響を避けるため、作業時間や実施日が制限されている場合があります。
事前に貸主側へ確認し、社内の業務や近隣への迷惑を最小限に抑えつつ、スムーズに工事を進めましょう。
また、工事スケジュールの調整や作業計画を立てやすくなるため、無理のないスケジュールで進められる点もメリットです。
原状回復工事の流れ

原状回復工事を行う際の流れを紹介します。
工事の進行次第でスケジュール通りに進まない場合もあるため、常に全体の流れを把握して進めましょう。
1. 賃貸借契約書の確認
原状回復工事を進める前に、賃貸借契約書の内容を確認しましょう。
契約書には、原状回復の範囲や退去時の手続きに関わる「解約予告期間」など、工事の準備に必要な情報が記載されています。
解約予告期間は、貸主の賃貸収入が急に途絶えるリスクを防ぐために設けられており、退去日の約6ヶ月前に設定されるケースが一般的です。
そのため、退去予定日の半年前を目安に準備を開始すると、スムーズに進められます。
2. 現地調査の依頼
次に、施工業者へ現地調査と見積もりを依頼しましょう。
原状回復工事には1ヶ月程度かかる場合もあるため、契約満了日の3ヶ月前までに依頼を済ませておくのがおすすめです。
また、現地調査の際は、原状回復義務のない箇所まで工事をしないように、工事範囲の確認を怠らないようにしましょう。
立ち合い担当者に間取りや設備の状況を詳しく伝え、施工業者が効率よく調査できるよう準備しておくと、スムーズに進められます。
3. 原状回復工事の発注・着工
見積書の詳細やスケジュールを十分に確認し、問題がなければ施工業者への発注・着工へと進みます。
見積もり内容に不明点があれば、着工までに解決しておきましょう。
工事が開始した後も、契約通りに作業が進められているかを定期的に確認すると、工事完了後のトラブルや追加工事の発生を防げます。
原状回復工事に必要な期間

原状回復工事にかかる期間は、オフィスの広さや工事内容によって大きく異なります。
たとえば、100坪未満のテナントであれば2週間から1ヶ月、100坪以上のテナントでは1ヶ月前後と考えておくとよいでしょう。
工事完了が遅れると遅延損害金や追加費用が発生する可能性もあるため、引き渡し予定日から逆算し、余裕を持ったスケジュール設定を心掛けてください。
原状回復工事にかかる費用の相場
オフィスの原状回復工事にかかる費用は、オフィスの面積や工事範囲によって大きく異なります。
たとえば、10~50坪以内の小規模なオフィスであれば、1坪あたり3~5万円が目安となり、総額で90~150万円程度のケースが一般的です。
一方、50坪以上の中・大規模なオフィスでは、1坪あたり10~20万円が目安で、総額では500~1,000万円に達するケースもあります。
上記はあくまで目安であり、内装や設備に手を加える箇所が多いほど工事費用は高額になるでしょう。
原状回復工事の費用負担を抑える5つのポイント

次に、原状回復工事の費用を抑える方法を5つ紹介します。
ポイントを押さえて進めれば、工事にかかる費用負担を軽減できるでしょう。
1. C工事にできるかを貸主へ相談する
原状回復工事がB工事に該当している場合は、C工事に変更できないか貸主へ相談してみるとよいでしょう。
B工事は貸主が施工業者を選定し、工事範囲も広いため、費用が高額になるケースがあります。
一方、C工事に変更できれば工事範囲を必要最小限に抑えられるだけでなく、費用の安い業者を自身で選定できるため、原状回復工事のコストを下げられる可能性があります。
さらに、工事範囲を事前にすり合わせられれば、トラブルの防止にもつながります。
2. 繁忙期は避ける
原状回復工事を計画する際は、施工時期にも注意が必要です。
オフィスの移転が集中する繁忙期は、工事費用が高めに設定される傾向があります。
スケジュールの調整も難しく、万が一トラブルが発生した場合の対応が遅れる可能性も高まるでしょう。
一方、閑散期であれば施工業者も余裕があるため、費用を抑えつつ柔軟な対応を受けやすくなります。
施工業者の繁忙期は一般的に1~3月と9~12月、閑散期は5~8月ごろです。
スケジュール上可能であれば、繁忙期・閑散期を見極めるのもコスト削減の有効な手段となるでしょう。
3. 複数の業者へ見積もりを依頼する
借主側が施工業者を選定する際は、複数の施工会社に見積もりを依頼しましょう。
複数社の見積もりを比較すると、工事費用の相場感を把握でき、1社だけに依頼して高額な費用を支払うリスクを避けられます。
多くの業者では見積もりを無料で対応してくれるため、3社程度を目安に依頼し、内容や費用を比較検討しましょう。
また、複数の業者に見積もりを依頼すると、対応のよさも判断できるため、トラブルの防止にもつながります。
4. 補助金や助成金を活用する
オフィスの移転にともなう原状回復工事では、国や自治体の補助金・助成金を活用できる場合もあります。
直接的に原状回復工事の費用を対象とするわけではありませんが、設備投資や業務改善の費用に充てられるケースがあり、活用すれば移転全体のコスト削減に役立つでしょう。
代表的な補助金・助成金を以下にまとめました。
- 事業再構築補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 事業承継・引継ぎ補助金
- IT導入補助金
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
ただし、補助金や助成金の申請には条件があるため、利用を検討する際は各制度の公募要領を事前に確認してください。
5. 保証金を活用する
オフィス入居時に支払う保証金は、退去時に全額返還されるケースが一般的です。
物件によって異なりますが、賃料の3~12ヶ月分を保証金として支払うケースが多く、返還されれば原状回復工事の費用に充てられます。
契約内容によっては、保証金の返還ではなく、あらかじめ原状回復工事に充てる旨が記載されている場合もあります。
そのため、保証金を有効活用するためには、契約書の事前確認が必要です。
原状回復工事に関するよくある質問

本章では、原状回復工事に関するよくある質問と回答を2つ紹介します。
1. 工事費用はいつ支払うの?
原状回復工事の費用をいつ支払うかは、施工業者によって異なります。
そのため、見積もりを依頼する際に支払いのタイミングを確認しておきましょう。
業者によって、工事前に全額を支払う必要がある場合や、工事前と完了後に分けて半額ずつ支払うケースもあります。
契約前に支払い条件を確認し、トラブルなく工事を進められる準備をしましょう。
2. 原状回復工事の勘定科目は何?
オフィスを退去する際にかかる原状回復工事の費用は、基本的に経費として計上できます。
経費として扱う場合、勘定科目は「修繕費」とするのが一般的です。
ただし、工事費用が高額な場合は「特別損失」として計上できるケースもあります。
適用の可否は管轄の税務署の判断によるため、見積もりの段階で税務署に確認しましょう。
また、原状回復工事にともない発生する不用品の処分費用は「雑費」や「支払手数料」として処理できます。
費用の性質に応じて適切に勘定科目を選び、正しく会計処理を行いましょう。
原状回復工事を正しく進めて円滑なオフィス移転を実現しよう
原状回復工事は、賃貸オフィスの退去時に必要となる工事であり、借主側が費用を負担します。
工事や費用負担の範囲は契約内容によって異なるため、契約書を確認し、不明点があればオーナーや管理会社に相談しましょう。
また、借主側で業者選定をおこなえる場合は、相見積もりによる比較や補助金、保証金の活用などで費用負担を抑えられる可能性もあります。
原状回復工事の特徴を正しく理解すれば、円滑なオフィス移転を実現できるでしょう。
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