仕事のスタイルや環境に満足していますか?
政府主導で進められてきた「働き方改革」により、長時間労働の是正や柔軟な働き方は少しずつ浸透してきています。また、コロナ禍の影響もあり、テレワーク・リモートワークが一気に進み、働く場所や時間などの自由度が増してきました。
そのような働き方の変化のなかで、近年「WELL認証」という制度が注目されています。オフィスの「空間」に関する制度ですが、いったいどのような制度なのでしょうか。
本記事では、WELL認証について詳しく解説します。オフィスの在り方や働き方を見直すきっかけにしてみてください。
「WELL認証」とは、オフィス空間を「ウェルビーイング」の観点から評価し、基準を満たしている企業に与えられる国際的な認証です。従業員が健康的に働ける環境の評価指標として、世界中で注目されるようになりました。
WELL認証は、ウェルビーイングな生き方を支える指標ですが、そもそも「ウェルビーイング」とは、どのような状態を指しているのでしょうか。「ウェルビーイング=well-being」は、肉体的・精神的・社会的に満たされ、幸福・健康である状態であるといわれています。
政府でも、毎年「満足度・生活の質に関する調査」が行われ、多面的に人々が満足度の高い暮らしを実現できるような政策運営に活かしています。また、ワーカーの健康管理を経営的な観点で考え、戦略的に実践する「健康経営」を行う企業も多いのではないでしょうか。働く場においては、身体的な健康だけでなく、「心の健康」や「社会的な満足度の高さ」がこれまで以上に求められていくでしょう。
「WELL認証=WELL Building Standard」は、2014年にアメリカで始まりました。2014年10月に「v1」、2018年5月には「v2pilot」が発表され、2020年9月15日に最新版の「WELL v2」ができました。(※2023年4月現在時点で最新)
10のコンセプトで構成された内容で、人々の健康をサポートするような建物の創造を目指します。オフィスだけでなくホテルや商業施設などにも適用され、2020年に京都のホテルが「ホテル」としては世界で初めて取得した実績があります。
WELL認証を取得するためのオフィス環境整備は、従業員の生産性や満足度アップにつながります。また、社会的な企業価値が高まる指標でもあり、その建物・オフィスの不動産価値も向上するでしょう。
また、就職活動をしている学生にとって、オフィスの環境は企業選びに重要なポイントです。「WELL認証を取得しているオフィス=働きやすい環境」につながり、学生や求職者にとって魅力になるでしょう。そのため、WELL認証の取得は、採用率を上げる要素の一つとなります。
WELL認証は、企業にとって大きなメリットのある認証制度です。では、どのように取得すればよいのでしょうか。
WELL認証には2種類あり、それぞれ評価項目が異なります。目指す方向性をしっかりと定めて、一つひとつの項目の条件を満たすようにオフィスの設備や環境を整えていきましょう。
2020年に発表された「WELL v2」は、建物内の空間を総合的に評価します。書類審査と現地調査による審査があり、取得するまでに1〜2年かかると言われています。
チェックポイントとなるコンセプトは次の10項目です。
● 空気
● 水
● 食物(栄養)
● 光
● 運動
● 温熱快適性
● 音
● 材料
● こころ
● コミュニティ
いずれも、建物・環境がそこで活動する人の心身の健康をサポートするために必要な要素と言えます。「こころ」などは、やや漠然とした項目ですが、認証取得企業では「瞑想ルームを設置する」「マインドフルネス・プログラムを開催する」などの取り組みをしています。
新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで、2020年5月には災害や感染症に特化した基準が設定されました。v2同様、オフィスだけでなくあらゆる建物運用にも適用できます。
主に評価するのは、次のポイントです。
● 運用ポリシー
● 維持管理手順
● 危機管理計画
● 建物のステークホルダーへの教育
これからの企業運営には、感染症対策だけでなく、災害対策も重要です。「Health-Safety Rating」の認証取得に向けて、あらためて社内の防災や感染症対策にも目を向けてみましょう。
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認証を取れば終わりではありません。WELL認証は、3年間の有効期限があります。取得後も継続的に再認証が必要なため、オフィスの環境をブラッシュアップしながら、よりよい状態で維持し続けなければいけません。
空間・施設の運営者に任せきりせず、利用者すべてが常に意識し続けることが大切です。well-beingな環境を保つために、常に変化する環境や社会情勢に目を向ける必要があるでしょう。
WELL認証は世界中で注目されているとお伝えしました。実際にどれくらいの企業が、認証を取得しているのでしょうか。また、日本ではどれくらい普及しているかも気になるポイントでしょう。
2022年8月末の取得状況をみると、トップ5は次の通りです。
● 中華人民共和国 220件
● アメリカ合衆国 183件
● フランス 50件
● オーストラリア 45件
● オランダ 29件
累計33ヵ国731件が取得済みで、さらに33ヵ国696件が「予備認証」を受けており、今後ますます増えていく見込みです。
一方、日本では2016年以降取得数は伸びていますが、2022年の時点で認証取得は24件にとどまっています。しかし、「WELL AP」と呼ばれるWELLプロジェクトの認証取得支援を行う人向けの資格制度もあり、取得者によって広く普及されることが予想されます。
あくまでも、認証取得支援を行う人向けの資格であり、評価そのものはできません。しかし、WELL評価システムの知識を有する専門資格で、内装材や照明を取り扱う企業などでも積極的に取得し、支援活動を行っています。現在では、日本国内での受験は可能ですが、すべて英語での出題です。
ここまで解説してきたWELL認証以外にも、建物に対する評価制度は国内外にたくさんあります。最後に数ある制度のなかでオフィスにも関わりの深い2つの制度をご紹介します。
LEED=Leadership in Energy and Environmental Design
Well認証と同じ「一般社団法人グリーンビルディングジャパン」が管理している、世界中で使用できる建築物の総合的な環境性能の評価制度です。WELL認証が、人のメンタル面やコミュニティにも評価が及ぶのに対し、LEEDは環境面での評価がメインとなる点が異なります。
世界各国の取得数は以下のとおりです。(2022年3月現在)
● アメリカ合衆国 76,603件
● 中華人民共和国 3,765件
● カナダ 1,486件
● インド 1,171件
● サウジアラビア 904件
なお、日本でも年々増えていますが、2022年2月時点で200件に届くほどの数の企業等が認証を取得しています。今後はWELL認証といっしょに取得する企業も増えていくでしょう。
CASBEE=Comprehensive Assessment System for Built Enviroment Efficiency
国土交通省主導で開発された、建築物の環境性能を評価するシステムです。一般社団法人日本サステナブル建築協会が実施しています。エネルギー性能・室内環境など総合的に判断されます。
建築物から都市まで、評価対象が広い点も特徴的と言えるでしょう。戸建・建築・街区などの対象のなかでオフィスに特化した「CASBEE ウェルネスオフィス」認証も用意されています。ワーカーの健康性・快適性・知的生産性の向上・安全安心性能などが評価されます。
「WELL認証」は、アメリカで始まったオフィスをはじめとした建物環境の認証制度です。音や光・空調などの環境だけでなく、利用者の「こころ」や「コミュニケーション」も評価対象になっています。さまざまな側面から「快適な環境」を実現するために工夫し整備された環境は、ワーカーにとっても心地よい空間となるでしょう。
今後、ますます取得企業が増えていくことが予想される認証制度です。経営者・総務・人事などで、オフィス環境整備の基準に悩んでいる方は一度検討してみてはいかがでしょうか。