地震や台風・大雨などの自然災害が頻発するなか、自宅の防災対策はしていても、オフィスでの被災を想定していない方は意外と多いかもしれません。内閣府でもBCP(事業継続計画)の一環として、オフィスの防災対策を推進しています。防災担当者を決めて、具体的に活動を進めている企業もあるでしょう。
しかし毎日の業務に追われて、いつ起こるか分からない防災まで手が回っていない、あるいは何をすればよいか分からない担当者もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、オフィス防災で備えるべき災害の種類や対策方法を、分かりやすく具体的にご紹介します。仕事中の被災時でも、命を守り、適切な行動をとらなければいけません。いざという時にも、慌てずに対応するための準備をいますぐ始めましょう。
オフィスは日常の生活空間とは環境が違うため、自宅での被災時とは対応も大きく変わるでしょう。ではオフィスだからこそ大変な被害や気をつけるべき対策には、どのようなものがあるでしょうか。
従業員の安否確認は、勤務中でも時間外でもとても重要です。リモートワークでオフィスに出社していない従業員や、営業活動などで外出している人もおり、全員の無事を確認するのが難しい状況もあるでしょう。
勤務時間中は、従業員と家族が離れた場所にいる状況になるため、家族間での連絡をとる方法を確保する必要もあります。
オフィスでの業務では、パソコンを利用することが多いでしょう。地震の揺れでディスプレイや本体が倒れて破損する、飛ばされて人や建物にあたるなどの危険性があります。また地震や台風による急な停電で、パソコンの処理中データが消失するといったリスクが考えられます。近年はリモートワークが普及してきたこともあり、オフィス以外の場所でも同様です。
減ってきたとはいえまだ残っている紙書類の保管を含めて、データ管理も重要な防災対策の一つといえるでしょう。
東日本大震災(2011年3月11日発生)のときに、首都圏で鉄道の運行中止・大規模な渋滞などの影響で自宅へ帰還できなくなる「帰宅困難者・帰宅難民」が発生しました。
内閣府の推計では、首都圏で約515万人に及んだとされています(出典:内閣府)。地震だけでなく、台風や大雨でも同様のケースは考えられます。近年の大災害は早朝・夜の発生が多いこともあり、自宅での被災をイメージする人も多いでしょう。
しかし当然ながら、東日本大震災のように、多くの人が仕事をしている平日の日中に起こることもあります。勤務中の災害発生リスクについて意識を高め、対策を講じることも重要です。
オフィスでの被災時の特徴をふまえて、具体的にどのような対策をとればよいか詳しいポイントを押さえたいと思います。
帰宅が可能あるいは社屋が被害を受けて避難する必要性がある場合に備えて、安全に避難するための「持ち出し用避難用品」を用意しましょう。ヘルメットや軍手・懐中電灯などを各自の机下に常備しておきます。
また勤務中は、革靴やパンプスなどを利用している人も多いと思います。避難しやすいスニーカーなどの靴を、個人で用意してもらうようにしてください。
災害の状況次第では、従業員が帰宅できないケースもあります。または社内のほうが安全に待機できる場合もあるでしょう。
ライフライン・交通機関・物資が止まった状況でも、滞在できる備蓄品が必要です。一人3日分を目安とした水・食料品・簡易トイレ・毛布などを自治体や会社のガイドラインにそって用意してください。
いつ起こるか分からない災害に備えた避難用品や備蓄品は、日常の業務に関わりが無いため、管理が行き届かないこともあります。
しかし万が一のときに、誰もがすぐに取り出せるように日ごろから整理整頓をしっかりしておきましょう。どこに何があるか分かりやすいサインを掲示しておき、従業員にもきちんと伝えておくことも重要です。
災害と聞くと地震などをイメージするのではないでしょうか。しかし、オフィスでの災害には火災被害も多く、日常的に気をつけるべき課題の一つです。
電気機器の利用が多いオフィスでは、漏電や電気コードの劣化による火災が発生しやすくなります。二重床にして配線類を床下にはわせる「フリーアクセスフロア(OAフロア)」にするなど、設計段階での工夫も重要です。
また、OAタップの最大容量を超えないようにする、コードを家具の下敷きにしたり無理に束ねたりして断線させないようにする、コンセント差し込み口にホコリがたまらないようにするなどの対策をしましょう。
収納家具が倒れないように固定する、家具の上に物を置かないといった地震対策は多くの企業が行っているかもしれません。
しかし見落としがちなのが、収納扉やガラス扉・デスク上の小物類です。収納扉には耐震ラッチを取り付けて、大きな揺れで中身が飛び出さないようにしましょう。また収納だけでなく窓にもガラス飛散防止フィルムを貼り、ガラスの割れを防ぐと同時に窓付近には物を置かないようにしてください。
またパソコンや文房具は、地震の揺れで飛ばされて凶器になる可能性があります。とくに、はさみやカッターなどの刃物は、机上ではなく引き出し内にしまうように呼び掛けておくとよいでしょう。
パソコンのディスプレイや本体は、ベルトで机に固定する・耐震マットを敷くなどの転倒防止対策も必須です。
避難経路や消防隊進入入口マーク・排煙窓がある場所は、十分なスペースを確保して家具や荷物でふさがないようにしてください。
社内での避難経路だけでなく、会社を出たあとも安全に避難できるように、近隣のハザードマップで事前に従業員に安全な経路を伝えておくとよいでしょう。
オフィス内外を問わず、災害発生時には従業員の安否確認を行わなければなりません。大災害が発生したときは、インターネット通信が使えない、携帯電話がつながらないなどの様々な状況をふまえる必要があります。
電話・メール・伝言ダイヤル・インターネット伝言板など、複数の対応方法を確保しましょう。また年に数回設定された体験期間を利用した社内での訓練も行い、いざという時に迷わずに使えるようにしておきます。
突然の災害に備えて、データやシステムのバックアップをきちんととっておく必要があります。まめにデータの保存をするのは、社員の心がけだけに頼らずクラウドシステムを利用するなど会社全体での対策も重要です。オンライン化が進み紙書類は減ってきたとはいえ、まだ完全になくなったわけではありません。
災害時には書類の紛失も大きな被害となるため、耐火性の高い金庫に保管する、データ化してクラウド上に保管するなどの対策をおこないましょう。
防災への意識・関心は年々高まっているとはいえ、まだまだ「他人事」と感じている人も多いのではないでしょうか。日常の業務に追われて、手が回らないケースもあるでしょう。しかし命を守り、復旧後に安心して仕事に復帰するためにも、日ごろから防災意識をしっかりと持つことが大切です。
定期的な避難訓練だけでなく、分かりやすい防災情報の伝達や自主的な取り組みができるようなサポートも企業としての防災対策の一つといえます。
オフィスデザイン・オフィス設計をおこなう上で、業務の効率化や快適性だけでなく「防災」も重要なポイントです。いざという時の備えは、日常的な業務とは関わりが少ないこともあり、従業員の意識が高くないのが現状ではないでしょうか。
これからの企業として、防災対策がスタンダードになるようなオフィス作りを目指しませんか?