オフィスデザインとは?働き方改革で見直されるオフィスデザインを解説。

オフィスデザインの歴史

雇用問題や働き方改革と共にオフィスデザインに対する意識が高まりつつあります。そもそもオフィスデザインはどのように変化していったのか歴史を振り返ってみました。

産業革命により「オフィス」が生まれる

もともと「オフィス」という環境は産業革命によって生まれたもの。英語の”Office”という語源はイタリア語の「Ufizzi(ウフィージ)」からきています。
14世紀に東方貿易と金融業で台頭したメディッチ家の領地管理事務所として1560年フィレンツェに建てられたオフィスビルの呼称と言われています。
産業革命によって大量に物を生産できるようになると、生産管理や企画といった小さな規模で行っていた業務が増大し、これらを行う人の働く場が工場に併設するかたちでオフィスが用意されていきました。
また金融業のような物を作らないビジネスが誕生し、これらの事業は工場を必要としない事業であるため専用の施設が必要とされ、ここから生まれたのがオフィスビルと言われております。

日本におけるオフィスの歴史

オフィスビルが日本に持ち込まれたのは明治時代となってからであり、日本におけるオフィスの歴史はおおよそ100年となります。
その頃の日本のオフィスデザインはデスクやイスは木製で、現在のスチールや樹脂系素材とは無縁でありましたが、この頃からオフィスのレイアウトは島型対向式のデスクレイアウトが採用されており、日本のオフィスは現在と変わりない様相です。
この間、オフィスデザインの先進国とも言える欧米では、ドイツの経営コンサルタント会社が、組織間や個人間の情報の流れを分析し、デスクレイアウトに反映させると同時に個人のプライバシーを確保する仕掛け「オフィスランドスケープ」を提唱する流れが進みました。米国でのオフィスレイアウトはローパーティションで個人のワークエリアを仕切るブース型のスタイルが主流となり、また植栽などもバランス良く配置するオフィスデザインが広がっていきました。

IT化によるオフィスを取り巻く環境の変化

こうして見ると日本のオフィスは大きな変化がなく推移してきましたが、日本でもIT化によって物を作らない事業も拡大し、また欧米や米国との海外事業展開が広まると同時にオフィスデザインにおける考え方や評価が変わってきました。
2009年頃から米国でデジタル機器を利用して場所にとらわれない働き方をする人を「ハイパーノマド」や「デジタルノマド」という呼び名で広まり、日本でもノマドワーカーという言葉でインターネットがつながれば、どこでも仕事のできるフリーランスを主体とする人が多くなりました。企業でもIT化の推進によって、オフィス内で自席は存在するが、場所や時間にとらわれない働き方のできるデザインを取り入れる企業が出てきました。

またフリーランスの事業家が増える一方でシェアオフィスも急速に拡大し、フリーランス同士の出会いから生まれるビジネスが発展していくことで、企業も従来の法人間の取引からフリーランスへ仕事を依頼したり、共同で企画を進めていく広がりも拡大。大手企業もサテライトオフィスとしてシェアオフィスの一部を借り、より密な関係性を深め事業の向上を進めるケースも増えてきました。
最近では日本人の働き方自体が問題視されるようになり、雇用問題や働き方改革が推進されていく中で、オフィスもより自由度が高く、居心地の良い環境への意識が強まり、現在ではオフィスデザインが経営課題のひとつの要素とまでになっています。

オフィスデザインの必要性

「モノ」から「情報」「サービス」へ

日本の産業はモノづくり大国と呼ばれる時代からアジア諸国の台頭により、生産拠点を国内からアジア諸国へと移行していくなかで、市場も「モノ」の飽和状況から「情報」や「サービス」という所有価値から経験価値の提供へと市場が変移。こうして日本の産業はポスト工業社会へと変化していきました。

日本企業は何を作ればよいかという知識資本社会へ対応していくなかで、主たる職場環境は工場からオフィスに変わり、工場では品質や生産性の向上を必要としていたことが、オフィスでは創造性が重要視されるようになりました。知識労働者の成長やモチベーション向上、より優秀な人材確保が必要とされていくことで、現在の企業にとってオフィスデザインは必要な課題であり重要な設備投資事項となっています。

オフィスデザインのもたらす効果

課題を解決するための機能とデザイン

企業にとってオフィスデザインに期待していることは、決して見た目の視覚効果だけではなく機能や設備が取り入れられていることです。
色彩効果や機能性の伴った家具の選定をすることでコミュニケーションが活性化されることやカフェスペースを作ることでコミュニケーションを誘発させる仕掛け、そして生産性を向上させるといった効果がうまれます。
このようなテーマに対し、視覚的、物理的な機能を持たせたデザインで課題を解決。そうした環境を整えている企業は優秀な人材を魅了し、人や企業が必然的に集まってくるようなことがオフィスデザインの期待される効果です。

オフィスデザインのゾーニング

オフィスデザインを進めていく中でゾーニングという言葉がよく使われます。
そのまま当てはめると「区域を決め分割していくこと。」住宅で例えると間取りです。
このゾーニングを決める際に区分されるカテゴリーは、主にパブリックゾーンと言われる受付や会議室と応接室。ワークスペースとなる執務室。そしてリフレッシュスペースや倉庫、サーバー室など企業によって必要な施設が加わってきます。
こうした中分類にわけた区域を入居ビルの特性や日常業務に合わせて効率よく配置することがオフィスのゾーニング計画と言われるものです。オフィスのゾーニングは効率性やセキュリティ面などの観点から非常に重要視されています。このゾーニングの仕方を間違えると日常業務が非効率になることもそうですが、無駄なスペースができることで面積や経済面でも非効率な環境となってしまいますので、しっかりとした計画性が求められます。

  • エントランス

  • 会議室

  • ワークスペース

  • リフレッシュエリア

オフィスデザインの領域

オフィスデザインと呼ばれる領域は多岐にわたる

オフィスデザインはゾーニングやレイアウト、室内の意匠をすることだけに限らず、企業活動に合わせたネットやビジネスホンなどの通信計画からセキュリティ設備、また働きやすい照度を検討したり、必要なコンセント設備などの配置などを検討する電気計画など多岐にわたります。そして空調設備や防災設備にも配慮しながらオフィス環境を設計していきます。
もちろん働き方に合わせた家具の選定や最近では映像・音響設備に至るまで総合的にオフィス環境を整えていくことをオフィスデザインという言い方で表現されることが多くなってきました。
住宅や店舗の設計やデザイナーがオフィスデザインすることは難しいと言われるのもこのような専門領域に、ある程度精通していないとプランが立てられないことがひとつの要因となっております。

オフィスデザインのトレンド

住宅のデザインが世代によって変化していき、また最近ではコンビニやファーストフードなどの店舗もその時代の生活ニーズに合わせたスタイルでデザインが変化していくのと同様に、オフィスデザインも市況や働き方の変化によってトレンドがあり常に移り変わっていきます。
昔の映画やドラマにオフィスのシーンが映し出されると以前のオフィス環境などの違いが非常にわかりやすいかと思います。

来客部分のみデザインしていた20年前のオフィス

20年ほど前のオフィスデザインは働き方や生産性というよりも、来客や役職待遇を重視する見た目やおもてなし思考の強いものがトレンドとなりました。
ローズ系の色合いの重厚感のある木製家具や革張りのソファが応接室や会議室、役員室の内装や家具として多く取り入れられていました。
オフィスデザインの打ち合わせに行くと、とにかく受付と会議室だけデザインして欲しいとのご要望が非常に多かった時代です。
またオフィスで靴を脱ぎ、畳や掘りごたつのある会議室が流行り、どこにいってもその要望が聞かれたこともありました。

一方でワークスペースはコストを掛けないと考える企業も多く、できるだけデスクや収納を多く配置し、内装はせずにオフィスを仕切る壁は短期で工事が可能なスチールパーティションが普及。同時にオフィスはガラスとパーティションの組み合わせ、そしてオフィス家具もベージュやグレー系のスチール性の家具が大半を締め、色合いの少ない無機質なオフィスが多く見られるようになりました。
バブル期が終わり、新たな成長企業が生まれていく中でオフィスデザインは大きく動き始めました。

コミュニケーションを中心としたオフィスへ

最近のオフィスデザインのトレンドは働き方とコミュニケーションを中心としたオフィスづくり。
これはアメリカ西海岸にあるシリコンバレーに集まる企業、アップルやインテル、グーグル、フェイスブック、ヤフーなど、世界を代表するソフト・IT関連の企業の働き方やコミュニケーション、創造性を生み出すオフィスデザインが日本にも大きく影響し、取り入れられてきました。こうした流れから日本のオフィスでも対外的に見せることから働き方の改革と共にワークスペース内のデザインに趣きが移行しております。

ITインフラの普及に伴いメールやチャット、SNSでのコミュニケーションが社内でも頻繁に行われるようになるものの、日常的に行われるアナログ的なコミュニケーションもスピーディーで柔軟性を大切にするという背景から、気軽に集まれるスポットがオフィス内に多く見られるようになっていきます。カフェのようなデザインで気軽に集まれて会話のできる雰囲気づくり。またそこで使われる家具も木製を中心とした家具がコーディネートされています。
今までは打ち合わせをするためにミーティングルームを多く併設していたものが、オープンスタイルの空間の中にファミレスなどにある、ボックスタイプのソファなどを取り入れ、多少のプライバシーを作る程度の仕様となっています。またこうした施設には常にBGMが流れていることでお互いの会話も気にならないような配慮もされています。

ワークスペース内もフリーアドレスタイプのデスクが主流となり人事やプロジェクトごとの人材配置へのレイアウト変更などにも素早く対応できます。日常的に自ら席を選ぶことによって向かいや隣に座るメンバーも変わり、メンバー同士のコミュニケーションが生まれる工夫もあります。
近年の働き方改革への取り組みやダイバーシティ化から労働時間に合わせたツールや健康的なものまでと、現在のオフィスデザインのトレンドは生産的に作業をこなす場から創造性やコミュニケーションを生み出す、いわば開発を中心とした施設に変化しつつあります。

様々なオフィスデザイン事例

  • Google

    今の日本にオフィスデザインのトレンドを巻き起こした先駆者的企業といっても過言ではないでしょう。働きたいオフィス、理想的なオフィスの代表格です。創造性を豊かにしてくれるオフィスというイメージの湧く印象です。

  • Twitter

    オフィスを見るだけでTwitterのオフィスとわかるCIブランディングの意識されたオフィスデザイン。

  • PIXAR

    もはやオフィスとは思えない環境。アイデアを生み出しやすい環境がコンセプト。理想空間を現実化したオフィスデザインに魅了されます。

  • Uber

    床や壁は結構シンプルでカジュアルな印象ですが、素材や色使いなど全体的な収まりが整っていることで品のある感じにまとまっているオフィスデザインです。

  • Facebook

    所々にユーモアーやアートを感じるコンテンツのある創造性豊かなオフィスはシリコンバレーにあるオフィスというイメージそのままの空間です。

  • AirBnB

    アメリカの情報誌で働きたいオフィスナンバーワンを獲得したAirBnBのオフィス。暮らすように旅しようという企業理念をテーマにしたオフィスです。

働き方改革とオフィスデザイン

日常的に働き方改革がテーマとなっているなか、オフィスデザインでどのような働き方改革への取り組みができるのかをまとめてみました。
そもそも働き方改革については、内閣総理大臣が議長となって、各界のトップと有識者が集まり実現会議によって、9つの分野で議論が行われているそうです。
そのなかでも長時間労働の是正や柔軟な働き方がしやすい環境整備、労働生産性向上などはオフィスデザインがサポートできる取り組みのひとつではないかと考えます。

時短を生むオフィスデザインで労働時間の長時間化を抑制する

働き方改革の中で最も重要視されているキーワードとなるのが長時間における労働時間。その問題となっている要因は企業にとって様々です。
この問題をオフィスデザインで解決できる方法としてまずは会議の時間を効率化する仕掛け。
会議室で行っていたことをなるべくオープンな環境で取り組む。例えばワークスペース内に立ちミーティングやボックスタイプのオープンなミーティングスポットをいくつか設けることで、視覚や物理的な側面から意識改革をもたらす効果を発揮させます。遮音性の問題からどうしても個室での会議が必要な場合はガラス張りのオープンな会議室で、他部署からの見える化を行うことで意識的な効果も高まるでしょう。
また資料の閲覧を共有できるようなソフトやその場で資料に書き込めるソフトなどを導入することで、資料作成や配布時間などの時短効果へとつなげていくことも重要な取り組みのひとつです。

また個人作業に多くの時間をとられる企業であれば、固定席を廃止し部門内のフリーアドレスを導入することでオープンで距離感の近いロケーションがうまれ、管理職やメンバーが周囲を把握しやすくなります。日常業務における会話がうまれる環境を整えることで、お互いの日常業務のサポートもスムーズになる効果が期待できます。
生産性向上の実現のため、多様な人材が対応できるオフィス環境をつくる。少子高齢化に伴い労働者問題が今後一層課題となってきます。労働生産性向上を進めるために企業では女性の職場復帰や労働者の高齢化、外国籍の労働者の雇用、また限られた時間で働く労働者やフリーランスの参加する活動など、雇用形態の広がりがますます多様になっていきます。このようなワーカーがひとつのオフィスで働くという職場環境の生態系の変化に伴い、オフィスデザインもそのような環境に合わせることも必要とされてきます。
正社員だけが働くことのできるようなセキュリティ計画の見直しや様々な人がコーワーキングスペースのように集まって働くことのできるスペースを設けることで、業務に場に自由度を持たせる考えもあります。多くの人材が集まることでリラクゼーションスペースの充実化や体格に合わせ調整できる家具の導入など、こうしたユニバーサルデザインを考慮したオフィスも今後の働き方改革への取り組みのなかで必要になってくる課題の一つです。

柔軟な働き方がしやすい、健康を意識したオフィスデザイン

産業の変化とIT化の推進の流れからデスクワークの時間が非常に増えてきました。オーストラリアでは座っている時間が11時間以上の成人は、4時間未満の成人と比べて総死亡のリスクが1.4倍高いと言われ、がんや糖尿病などと座り過ぎの習慣は関連していると発表され問題となっています。
もはや肩こりや目の疲労などは慢性的な症状で感覚として意識が緩んでしまっているくらいではないでしょうか。

日本でもこのような問題や女性の職場復帰や定年の延期など、働くことへの永続化がされていく中で健康的に働くということも働き方改革でのひとつのテーマとなっています。
こうした状況をオフィスデザインで解決するために昇降式のデスクを取り入れ、一日の中で立ってデスクワークをする機会を設けたり、コピー機やゴミ箱を身近に置かず、オフィス内を歩く仕掛けなどを作ることで必然的に日常業務のなかでも動きが出るように配慮し、健康促進をサポートすることも重要となってきています。
オフィス内装で意匠的なデザインを整えることは日常的な視覚効果として内面的に気持ちが豊かになります。しかしながらこのような働き方改革をオフィスデザインで実践するには、やみくもにオフィスデザインを進めていくのではなく、何が問題となっているのかを明確にして取り組むことがとても重要です。