一日の長い時間を過ごすオフィスは、心地よい空間でなければいけません。快適に過ごすためのオフィスには、いったいどのような要素が必要でしょうか。本記事では、オフィスデザインを考える際に押さえておくべき4つのポイントについて、詳しく解説します。
新しいオフィスの開設や移転を計画されている方だけでなく、現状のオフィスをより快適にしたいと考えている方もぜひ参考にしてみてください。
オフィスでは、異なる業務を担う複数の人が同じ空間で過ごします。働く人たちが、自分の仕事に集中して取り組めるような動線が確保できているかどうかは非常に重要です。
ここでは、デスクレイアウトをはじめ、活動しやすいオフィスの動線計画について考えてみます。
デスクワークの多いオフィスでは、デスクがどのようにレイアウトされているかが業務効率に関わります。働き方の多様化に伴い、これまで主流だった「固定席」に加えて「フリーアドレス」を取り入れる企業も増えているようです。
フリーアドレスとは一つのデスクを複数の人で使用する形式で、これまでは出入りが多い営業職が利用するケースが多かったのではないでしょうか。近年、テレワーク・リモートワークの普及により、在宅での仕事と出社を交代で行う働き方も増え、事務職でも固定席ではなくフリーアドレスを利用するケースも増えてきました。
フリーアドレスはオフィス内の場所を有効に利用できる反面、個人的に使用している書類や備品などを保管しにくい、チーム内コミュニケーションが取りにくいなどのデメリットもあります。業務やチームの特性に合わせて、デスクレイアウトを検討してみてください。
デスクワークがメインになる仕事では、座り方が業務効率に大きな影響を与えます。首、背中、腰など体への負担がかかる椅子は、深刻な健康被害を引き起こしかねません。デスクとチェアの距離や高さが体にフィットしているか、パソコンとの位置関係が適切かなどを考えて選定する必要があります。
休憩室や応接室には、リラックスできるソファを導入してもよいでしょう。近年、カフェのようにソファベンチにテーブルが置かれたフリースペースをオフィス内に設けるオフィスデザインもよく見られます。適材適所のデスク・チェアを選定しましょう。
オフィスには、デスク・チェアのほかに収納やコピー機なども設置されています。業務で頻繁に使用する場合には、デスクからアクセスのよい位置にないと不便です。フリーアドレスや共有スペースなどの利用時には、このような収納や設備と離れている可能性もあり、業務に支障をきたす可能性も考えられます。デスク・チェアだけでなく、周辺設備との動線やアクセスも考えてレイアウトしましょう。
オフィスには、ワークスペース以外にも会議室や応接室、休憩スペースなどが用意されます。このように通常業務以外の場所とワークスペースの位置関係もしっかり考えてみてください。
例えば、社外の人の応対を含む会議室・応接室がワークスペース内にある、あるいは隣接していると場合によってはプライバシーの問題もあるでしょう。お互いのコミュニケーションをしっかり図れるようにしながら、区別すべきところは空間をしっかり分ける必要があります。
また、飲食を伴う休憩スペースが、ワークスペース内にあるとリフレッシュできず、仕事中の人に気を遣う可能性もあります。主に何を行う場所なのかを踏まえて設計しましょう。
居心地のよい空間には「よい空気環境」も、なくてはならない条件の1つです。ここでは、快適な空気環境のポイントをお伝えします。
厚生労働省では、商業施設やオフィスビルなどの空気環境基準を設定しています。人体への影響を考慮して「温度:18℃以上28度以下とする」「相対湿度:40%以上70%以下とする」などの基準があり、これらの条件を満たすことが快適な空気環境の最低条件とも言えます。
室内の空気を快適に保つためには、換気が重要です。窓や開口部を使った「自然換気」と換気扇などの機械をつかう「機械換気」を適切に行い、室内の空気を入れ替えましょう。
厚生労働省では、30分に1回以上、数分程度窓を全開にする自然換気を推奨しています。オフィスの条件によっては、自然換気が難しいケースもあります。換気設備や空気清浄機を上手に使い、室内の空気環境を整えてみてください。
空気環境は清浄な空気以外にも、次のような点を意識するとより快適になります。意識して、コントロールしてみてください。
● 照明:照度だけでなく空間の用途に合わせた光色の調整も有効
● 自然光:直射日光を避けるようにカーテンやブラインドを使いコントロール
● 整理整頓:清掃がしやすくホコリなどの不純物が溜まりにくい状態を維持
● 温度管理:18℃以上28度以下
● 湿度管理:相対湿度40%以上70%以下
● 香り:不快なにおいを除去し、心地よい香りを取り入れる
空気環境の項でも触れましたが、心地よい空間には適切な照明計画が必須です。部屋全体の明るさと手元など局部的な明かりを使い分け、業務に適した照明計画を行いましょう。
オフィスと言っても、行う作業は人それぞれです。ワーカーが仕事に集中して取り組めるように、部屋全体と手元の明るさの両方を調整できるように照明器具を用意してください。
暗い中でもパソコン画面の光で作業を続ける方もいますが、眼精疲労の原因となるので注意が必要です。モニターライトや手元のデスクライトを用意して、疲れにくい環境を作ります。手元ライトを用意するときには「手元に影ができる」「光源が直接目に入りまぶしい」などのストレスがないように、セードの向きが調整できるような物を選ぶとよいでしょう。
照明の明るさはいくつかの単位で表されますが、照明計画を行うときには「ルクス(lux)=照度」を基準とするとわかりやすいでしょう。「ルクス」は、照らされた場所にどれだけ光が入っているかを示す単位です。
JIS照明基準総則によれば、オフィスでの作業面に必要な「推奨照度」は500〜700ルクスとされています。ルクスの数値は光源から離れるほど小さくなるため、照明器具との距離もポイントです。
厚生労働省のテレワーク環境における必要な照度は300ルクス以上としていますが、体感的には仕事を行うにはやや暗いかもしれません。感覚には個人差があるため、必要に応じて手元の照明で補完してみてください。
オフィスの照明を選ぶとき、全体の明るさを確保するために天井面に埋め込まれた全般照明にする事例がよくあります。もちろん、安定した明るさを確保できる方法ですが、デザイン性の高い照明器具を取り入れて、オフィスにリズミカルなアクセントを加えると、より居心地のよい空間演出ができます。
働き方は日々進化しています。時間・場所にとらわれない働き方だけでなく、多様性を意味する「ダイバーシティ」経営の考え方も一般的になりました。オフィスはこれまで以上に視野を広げてデザインされなければいけません。
以前から、テレワーク・リモートワークは着目されていましたが、コロナ禍を機に一気に普及しました。現在では、出社の重要性も再認識されていますが、交代出勤を行う会社もまだまだ見られます。自宅などでの勤務は、コミュニケーションが取りにくいなどの問題点はあるものの、悪天候や交通機関の影響に左右されず業務を行えるメリットもあります。今後も、働き方の選択肢として残るでしょう。
このようにテレワーク・リモートワークと出社の交代を行う「ハイブリッドワーク」が円滑に行えるような施設・設備を充実させる必要があります。例えば、オンラインミーティングなどを行いやすいようなブースの設置やネットワーク環境の整備などです。
学生時代から多様性を学ぶ機会が増えました。オフィスにおいても、価値観や文化の違いを認める環境設計が大切です。経済産業省では「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出し、価値創造につなげていける経営」をダイバーシティ経営としています。人種・障がい・ジェンダーなどの垣根を越えて、誰もが過ごしやすいオフィス作りをしてきましょう。
働きながら学ぶ環境があれば、ワーカーのモチベーションアップに繋がります。日常の業務でも、多くの学びがありますが、研修ができる会議室や図書室などをオフィスに設置してみはいかがでしょうか。自己研鑽の場となるだけでなく、部署間・世代を越えた交流を生み出せます。
毎日の仕事を楽しくするためには、働く環境が快適であることが重要なポイントです。業務が行いやすいデスクレイアウトや動線計画、空気環境・照明計画など設計・設備が適切なオフィスデザインを目指してみてください。また、集中して業務に取り組めるだけでなく、モチベーションアップに繋がるような設計のオフィスなら、楽しく働けるでしょう。