近年、企業のブランド価値向上において、オフィスデザインの重要性が急速に高まっています。働き方の多様化やハイブリッドワークの浸透に伴い、オフィスの存在意義が見直されました。オフィスの役割は、ただ業務を遂行する場としてだけではなく、企業の価値観や文化を体現する場であるという認識になってきたからです。本記事では、オフィスデザインを通じた効果的なブランディング手法と企業価値向上のポイントを、事例や具体的なアイデア・アドバイスとともに解説します。
オフィスデザインは、企業の価値観や文化を体現する重要な要素として、注目を集めています。企業イメージを高めるだけでなく、社員のモチベーション向上や生産性アップにも大きく貢献してくれるでしょう。ここでは、オフィスデザインが企業価値に与える具体的な影響について、4つの観点から詳しく解説します。
会社の価値観やミッションを「目に見える形」で表現されたオフィスは、企業理念や事業内容を対外的にわかりやすく伝える手段になります。具体的には、次のような工夫が効果的です。
●コーポレートカラーが使われたアクセントウォールや、グラフィック・アートを取り入れた壁面デザイン
●企業理念やキーメッセージを壁面にアート調に配置したウォールアートやサイネージを利用したサインなど
●環境に配慮した企業であれば自然素材を多用するといった、企業イメージに合わせた素材選び
●企業ロゴの配色をオフィス全体に取り入れるといった、ブランドストーリーを表現するカラーコーディネート
日常的に企業文化に触れられる環境は、従業員の「この会社の一員だ」という実感を持ちながら働くことを促します。また、お客様が来社した際にも、会社の考え方や大切にしていることを、空間を通じて感じ取ってもらえるでしょう。
快適な職場環境づくりは、仕事の効率を上げる要素の一つです。自然光が入る明るい空間、作業を邪魔しない安定した照明計画、心地よい湿度や室温の管理、業務を行いやすい動線計画などが適切なオフィスは、働きやすく従業員のモチベーションが上がります。
また、次のようなオープンで使いやすい空間を設けて、部署の垣根をこえた意見・情報の交換を活発化させることも可能です。
●リラックスできる休憩スペース
●アイデアを書き出せるホワイトボード
●気軽に話し合えるミーティングコーナー
●誰でも使えるフリースペース
このようにオフィスデザインは、コミュニケーション促進を生み出し、いきいきとした企業文化を築く一環を担えます。
エントランスやショールームに、会社の歴史・成長の様子・重要な出来事・受賞歴などを分かりやすく展示すれば、来訪者に会社の魅力を伝えてられます。また、広々とした応接室や使いやすい商談スペースは、従業員だけでなく来訪者にも居心地のよさを感じてもらえるでしょう。
高品質な家具を導入したインテリアコーディネートは、企業の信頼感を高めてくれます。また、清潔感があり、快適性の高いオフィスはお客様を大切にする姿勢が感じられ、よりよい関係構築に一役買う要素です。
オフィスデザインは、優秀な人材を採用する際の大きな武器の一つです。とくに、若い世代は、オフィスの雰囲気をもとに多角的な要素を判断しているのではないでしょうか。例えば、以下のような要素が判断材料として挙げられます。
●将来性・成長性:自由なワークスペースやチーム作業がしやすい環境があるか
●クリエイティビティ:最新技術は導入されているか、創造性を高める空間設計か
●コミュニケーション文化 :オープンなスペースや気軽に話し合える場所はあるか
●従業員への投資姿勢: 休憩スペースを含めた福利厚生の有無、快適な環境か
●企業理念との一貫性 :オフィスデザインを通じて表現される企業文化や価値観が掲げている理念と合致しているか
快適な仕事環境や最新の技術導入は、単に「働きやすさ」を示すだけではありません。従業員一人ひとりが持っている力を最大限に引き出すための投資と考えられています。企業の成長や従業員に対する意識の高さがわかるオフィスは、優れた人材を採用する際に、他社との大きな差別化につながります。
WORK KITが手がけたオフィスデザインから、ブランディングを成功した事例紹介です。WORK KIT(ヒトバデザイン)の自社オフィス移転も紹介します。それぞれの企業が、どのように空間を通じて企業理念を表現し、ブランド価値を高めているのかをご覧ください。
CO2排出量可視化・削減サービス「e-dash」を展開する企業のオフィス事例です。両側の窓から自然光が差し込む開放的なレイアウトは、社員同士の自然なコミュニケーションを促進します。特殊塗装の壁面や木目調の床材が、温かみのある落ち着いた雰囲気を醸し出しています。随所に配置された長く使える上質な家具に、環境負荷低減への想いを託しました。天井に配置されたランダムなライン照明は、企業理念である「疾走感」を表現し、電子サインやウォールシェルフにもブランドイメージが巧みに織り込まれています。社員デザインの会議室サインやアート作品も取り入れ、エネルギッシュで温かみのある空間に仕上がりました。
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研磨関連商品の製造販売を手掛ける企業の、移転に伴うオフィスデザイン事例です。「塗る・切る・磨くで世界を変える」という企業理念を、空間デザインに巧みに取り入れています。例えば、エントランス付近に設けた鏡面仕上げカウンターは「磨く」を、ひな壇背面の特殊塗装壁は「塗る」「切る」をモチーフとしています。洗練された都会的オフィスデザインは、製造業の従来のイメージを刷新する空間を作り出しました。
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ヒトバデザインは、2拠点に分かれていた事務所を統合し、「ひとつになる」というビジョンのもとに新オフィスを開設しました。
●社員同士の顔が見えにくい状
●拠点が分かれることによる運営の非効率さ
●座席不足や設備面
といった課題を解決するため、思い切って移転を決断し、オフィスデザイン会社としてモデルとなる空間設計を意識しています。
オープンなレイアウトで視線が通り抜ける執務スペースは、自然なコミュニケーションを促進できます。会議室は用途に応じて使い分けられるよう機能的に配置し、オンライン会議や電話にも配慮した音環境を整備しました。家具選定や空調換気設備への配慮を含め、快適な執務環境を実現しています。
ヒトバデザインでは、新オフィスを通じて企業文化を醸成し、目線を上げた新たな挑戦へと繋げています。
戦略的なオフィスデザインを実現するためには、エントランスから執務スペース、コミュニケーションエリアまで、それぞれの空間が果たす役割を明確に理解し、効果的に計画することが重要です。ここでは、企業価値を高めるオフィスデザインの3つの重要な要素について、具体的な手法とともに解説します。
エントランスは企業の顔であり、来訪者に与える最初の印象を決定づける重要な空間です。企業の品格や信頼性を高めるデザインを計画します。例えば、洗練された印象を与える内装材を用いる、間接照明で上質な空間演出をするなど、来訪者を迎えるにふさわしい空間設計を意識してみてください。
また、コーポレートカラーやロゴを効果的に取り入れ、パネル展示やデジタルサイネージを利用して企業の歴史・実績・ビジョンを視覚的に紹介します。企業の価値を印象的かつ効果的に伝えることができるでしょう。さらに、季節や企業の重要なイベントに合わせた装飾や展示の更新により、常に新鮮で活気のある空間を演出することが可能です。
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従業員が最も長い時間を過ごすワークスペースは、業務効率を高めるためのゾーニングとレイアウトが重要です。どのエリアをどの部署(あるいは誰)が使うか、業務内容に即した広さや動線計画はどのようなものかをしっかり検討します。デスクの配置や通路幅、収納スペースの確保など、細部にわたる計画を行いましょう。
レイアウトが決まったら、実際に使用する家具を選定します。長時間のデスクワークは、身体への負担が大きくなります。姿勢の維持をサポートする椅子や、高さ調節が可能なデスク、モニターアームなどを導入し、従業員の健康を維持するための配慮も必要です。
また、集中力を維持しながら効率よく業務を進めるには、適切な照明計画を行う必要があります。自然光の取り入れ方も含め、照明の色温度、明るさの調整など、多角的に検討しなければいけません。さらに、目に見えない快適な環境を作ることも大切な要素の一つです。季節や時間帯による、細やかな配慮も踏まえて換気・湿度温度の管理や騒音対策もしっかり行ってみてください。
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テレワーク・リモートワーク環境下では、コミュニケーション不足が大きな課題となりました。オフィスは、社内のコミュニケーション活性化の場としても重要な役割を果たします。そのため、コミュニケーションを図りやすくするために、目的や状況に応じた多様なスペースを戦略的に配置することが重要です。
例えば、複数人で共有して使う「会議室」も、利用する人や業務内容・利用目的は様々です。具体的には、次のようにわけることができます。
●フォーマルな会議室
●カジュアルなミーティングスペース
●オンライン会議ブース
●少人数での打ち合わせに適したスモールミーティングルーム
スペースには限りがあるため、目的に合わせてフレキシブルに活用できるようにする必要があるでしょう。
また、部署の垣根をこえたコミュニケーションが取れる休憩スペースやフリースペースも、活発なアイデア創出につながります。会話をする場所として作りこむのではなく、カフェテラスのようにリラックスした雰囲気で立ち話や偶発的な会話が生まれる環境にしてみてもよいでしょう。
自由な発想を促すブレインストーミングエリアも、ぜひ設けてみてください。ホワイトボート壁やデジタルツールを備えていると、より有効に活用できます。
オフィスの新設・移転・リニューアルは、企業ブランディングと価値向上を実現する大切な機会となります。ここでは、企業価値向上につながるオフィス作りにやるべきことを解説します。
まずは、現状のオフィス環境における課題や問題点を、詳細に分析することから始めましょう。具体的には、物理的な要素と運用的な要素にわけて、多角的な視点で現状を評価します。
●物理的な要素:スペース効率・動線・照明・温湿度・換気・音環境など
●運用的な要素:コミュニケーションの質・業務効率・従業員満足度など
これらの分析結果と、企業の価値観や将来のビジョンを踏まえて、現状の分析結果を反映さえたオフィス空間像を具現化します。そのうえで、予算や時間的制約を考慮しながら、優先順位の高い項目から段階的に改善を進められるように、実現可能性の高い詳細な実施計画を作りましょう。各フェーズでの目標と期待される効果を明確にし、柔軟な修正にも対応できる計画とすることで、持続的な環境改善を実現できます。
オフィス環境の課題の分析と並行して、実際に働く従業員の声に耳を傾けることも重要です。社内アンケートやヒアリングを通じて従業員の意見を広く収集し、各部署からの具体的な要望や課題、改善点を詳細にまとめましょう。とくに、日常的な業務における不便さや、理想的な働き方についての提案など、現場の声を丁寧に拾い上げることで、実効性の高い改善計画の立案が可能となります。
これらの声を、前述の基本計画に加えてオフィスデザインを検討してみてください。まずは、緊急性や実現可能性、投資対効果などの観点から優先度に応じて項目を整理します。そして、短期・中期・長期的な視点にわけて改善を進めていきましょう。はじめからすべての改革的なアイデアを取り入れるのではなく、段階的に導入する「パイロットオフィス」という方法もあります。
また、定期的なフィードバックを収集することで、改善後の効果測定と新たなニーズの把握を継続的に行い、常にオフィス空間のブラッシュアップを図ることも大切です。
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実際に、オフィス空間を設計する段階になったら、企業価値を視覚的に表現する方法も模索します。コーポレートカラーやイメージカラーを室内のアクセントとして使用したり、企業理念や目標を視覚的に表現したりするとよいでしょう。とくに、エントランスやミーティングスペースなどの重要な場所では、企業のアイデンティティを印象的に演出してみてください。
また、一貫性のあるインテリアデザインにして、ブランドをわかりやすく表現することも大切です。内装材や家具は、企業・ブランドらしさを感じられるものを選ぶとよいでしょう。
企業イメージを表現するデザインとあわせて、社員一人ひとりが効率的に業務を遂行できる空間設計を行います。快適な職場環境を実現するために、デスクやミーティングスペースの配置は、自然な動きを妨げないように十分な通路幅を確保しましょう。また、収納スペースを適切に配置することで、整理整頓がしやすく、清潔な環境を維持できます。
照明や空調、音環境にも配慮が必要です。とくに、オンライン商談が活発化している近年は、オフィスでの音問題も課題となっています。集中を妨げる騒音を軽減するために吸音材を使用したり、静かなエリアと賑やかなエリアをわけたりといった工夫をしましょう。
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社員数の増加や組織構造の変化など、将来の成長に備えたフレキシブルな空間設計も必要です。可動式のパーティションを活用し、デスクの再配置ができるレイアウトを検討してみてください。また、什器の入れ替えがスムーズに行える配置計画や、電源や通信設備の配置にも十分な余裕を持たせるようにします。
新しい働き方やテクノロジーの進化といった、ビジネスニーズの変化に迅速に適応できるかどうかも課題の一つです。フリーアドレスやABWなど、柔軟な働き方にも対応できるオフィスデザインを意識しましょう。
オフィスデザインを通じた企業ブランディングは、おしゃれかどうかといった見た目の改善にとどまらず、企業価値の本質的な向上に大きく貢献します。効果的なオフィスデザインは、業務効率の向上や従業員のモチベーション向上をもたらすだけでなく、企業文化の可視化や対外的なブランドイメージの強化にも直結します。従業員の働きやすさと生産性の向上だけでなく、来訪者への印象付けも可能にするオフィスデザイン。企業理念の効果的な表現を総合的に考慮して、長期的視点に立った戦略的にアプローチしてみてください。