「働き方改革」「ワークライフバランス」「リモートワーク」など、働き方に関する考え方や価値観は、日々ブラッシュアップされています。人生100年時代を迎える我々にとって、心身ともに健康で長く働き続けられる環境は重要な問題と言えるでしょう。そこで、今注目されているのが「働きがい改革」です。
本記事では、これまでによく耳にしていた「働き方改革」との違いや、働きがいを向上させるメリットを解説します。ワーカーが働きがいを持つことの重要性を知り、オフィス環境を整えるきっかけになるかもしれません。具体的に、働き方を向上させる方法もお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
これまで「働き方改革」では、働きやすさの改善に着目されていました。
そもそも、働きやすさと働きがいには、どのような違いがあるのでしょうか。
● 働きやすさ:健康・安全・福利厚生などに配慮された従業員が安心して働ける環境の整備
● 働きがい:「この職場で働きたい」と感じる前向きな気持ちを持って仕事に取り組める環境の整備
「働きやすさ」はハード面の整備に重点が置かれますが、「働きがい」は従業員の内面的な気持ちに働きかける要素であることがわかります。
働きがいは、従業員が主体性・積極性を持ち仕事に向き合える環境であり、内発的モチベーションに働きかけて達成感を得られるかどうかがポイントです。
モチベーションとは目的意識のことで、外発的モチベーション・内発的モチベーションにわけることができます。
外発的モチベーション
● 外部からの刺激(例:成果報酬や昇進)
● わかりやすい目標になるが持続しない
内発的モチベーション
● 内面的な意思から促される行動・自己実現・成長につながる
● 持続的だが短期的に発生しにくい
「働きやすい企業は働きがいがある」と感じ、「働きがいがある企業は働きやすい」と感じられます。
つまり、これからの企業に求められるのは「働きやすさ」と「働きがい」の両方であると言えるでしょう。
近年、働く環境の整備だけでなく「働きがい」が注目されているのはなぜでしょうか。長期的な採用難や離職率の高さは、多くの企業の課題です。働く人の価値観の変化に合わせて、企業も改革が求められています。まずは、働きがいが注目され始めた背景や理由を考えてみます。
内閣府が公表している2023年10月の高齢化率は29.1%です。高齢化率とは、総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合を言います。高齢化が進む一方で、出生率は下がり続けています。生産年齢人口(15~64歳の主な働き手)も、減少し続けているのが現状です。そのため、人材確保や定着は今後もますます大変になっていくと予想されています。
少子高齢化社会で優秀な人材を採用するためには、この企業で働きたいと感じられる環境が必要です。株式会社マイナビによる「マイナビ 2024年卒大学生就職意識調査」では、就職を考えている学生の「就職観」でもっとも多い意見は「楽しく働きたい」であり、収入に関する条件を大きく上回っています。このことから、内発的モチベーションに働きかける必要の重要性がわかります。
Z世代の転職者は、年々増えています。幅広い知識を持ち、業務の垣根を超えて様々なことに対応できる能力を持つ「ゼネラリスト」志望を求める傾向があるとも言われています。そのため、若い世代では今後も「新しいことへチャレンジができる環境」が、求められていくでしょう。
また、30~50代のミドル世代における転職率も上昇傾向です。転職先の決め手となる理由は、給与のよさに加えて、「私生活のゆとりができるようになること」があげられています。休日や残業時間が適正であるかといった、働きやすさに関わるポイントが重要視されていることがわかります。
コロナ禍では、強制的にオフィスで働けない状況下に置かれました。その後、さまざまな問題・課題を抱えながらも、テレワーク・リモートワークが働き方の一つのかたちとして定着しています。その結果、場所にとらわれない働き方を求める声が増えているようです。
また、副業やフリーランスの増加に伴い、オフィスのあり方や存在意義にも変化がありました。企業側も従来型のオフィスではなく、フレキシブルに働ける環境を整備する必要があると言えます。
働きやすさと働きがいが、これからのオフィスには求められています。実際に「働きがい」を感じられるオフィスでは、どのようなメリットがあるのでしょうか。
厚生労働省「職場の働きやすさ・働きがいに関するアンケート調査(従業員調査)」を参照すると、働きやすさ・働きがいがある職場は仕事に対する意欲が高いことがわかりました。
安心して働ける環境ややりがいを感じられる業務は、従業員自らのモチベーションを高める要素です。従業員の意欲が高いオフィスは、ポジティブな雰囲気を生み出しチームの関係性改善も図れるでしょう。
コミュニケーションが活発になり、ミスの軽減・業務効率化・新しいアイデアの創出など、前向きな活動につながります。また、従業員のストレスも減り、健康的な働き方を実現させることが可能です。
前述のアンケートでは、働きがい・働きやすさがある企業は、業績が上がっているという結果もみられました。従業員の前向きな気持ちや働きたいという意欲は、業績向上にもつながっています。
従業員の積極的かつ能動的な活動が、実際に企業に利益をもたらしてくれます。能動的とは、自ら考えて他者へ働きかける動きのことです。新しいアイデアの発見が、商品開発につながるかもしれません。また、問題発見・解決策の提示を行い、生産性をあげられます。
業績が上がれば、対外的にも企業の安定性・将来性を見せることができます。自ら手に取る商品やサービスがどのような企業で作られているのか、気にしている消費者は多いでしょう。商品の品質だけでなく、商品が作られる過程やバックボーンを知ることでより興味を持ってもらえます。
「働きがい」を持って能動的に生き生きと働いている姿は、商品や企業の価値を高める効果があるのではないでしょうか。企業の評価が高まり注目されることで、より多くの人に商品やサービスを購入してもらうきっかけになります。
労働者不足・雇用形態の多様化など、人材不足が叫ばれるなかでは、できるだけ長く優秀な従業員に仕事を続けて欲しいと考える経営者の方は多いでしょう。働きやすく、働きがいを感じられる企業では、従業員は「ずっと働き続けたい」と感じます。人材育成はコストも時間もかかり、せっかく育てた従業員が辞めてしまうリスクを減らせます。
仕事を辞めたいと考える理由の一つに「人間関係の悪化」があげられます。一人ひとりの従業員の満足度が高まれば、チームや部署全体の雰囲気もよくなります。円滑なコミュニケーションが図れ、協力して業務に携われるでしょう。そのため、働きやすさがますます向上し、定着率も上がるのではないでしょうか。
就職活動をしている学生が、働きたくないと感じる要素の一つに「(オフィスの)雰囲気が悪い」というものがあります。就職活動中に目にするオフィスの先輩社員が、ポジティブな雰囲気で楽しそうに働いていれば、働きたいと感じてもらえるポイントになります。
企業紹介や採用情報を掲載する媒体でも、オフィスの雰囲気がよければ求職者の目に留まりやすいでしょう。働く人の表情やオフィスデザインを含めた印象のよさは、優秀な人材確保につながります。
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働きやすく、働きがいを感じられる環境は、企業にさまざまなメリットをもたらします。では、働きがいを感じる環境とは、どのようなものでしょうか。ここでは、具体的な要素を解説します。
コロナ禍に定着したテレワーク・リモートワークでは、コミュニケーション不足による孤独感が課題として表面化しました。一人で仕事をしていると、やっていることが正しいのかわからず悩みを抱え込みやすくなります。
働きが認められにくいために、所属している企業や仕事そのものに対する存在意義を感じられなくなるケースがみられます。この疎外感や孤独感による意欲の低下は、オフィスで仕事をしていても同様です。「働きがい」を持ってもらうためには、従業員一人ひとりの働きに対する第三者の適正な評価が重要です。
働く意欲の一つに自身の成長をあげる人も多いでしょう。成長には、キャリアアップとスキルアップの2種類があります。ミドル世代では、経験を積みながら重要なポジションに昇格することを目標に働く「キャリアアップ思考」の方も多いかもしれません。
しかし、若い世代は、終身雇用の視点から離れた働き方をしています。専門的な知識やスキルを幅広く身につけて、どのような状況・環境でも働ける「スキルアップ」思考が強い傾向です。いずれにしても、成長できる環境に「働きがい」を感じられるでしょう。
企業ビジョンとは、中長期的に「どこを目指して何をどのように活動するか」という道筋のことです。企業価値や企業理念は「創業者・経営者の想い」を含んでいますが、ビジョンはより明確かつ具体的な方向性を指していると考えてもよいでしょう。
企業のビジョンが従業員にしっかり共有されると、主体的な行動が促されます。優秀な人材の確保・維持につながり、企業価値も高まるでしょう。従業員にとっても、企業の価値を自身の目標に置き換え、能動的な活動ができるのではないでしょうか。企業における存在意義を感じられ、「働きがい」を持って取り組めます。
働き方は、多様化していています。一人ひとりのライフスタイルや状況、価値観を踏まえた多角的な働き方が求められています。コロナ禍に一気に普及・定着したテレワーク・リモートワークをはじめとした、場所を限定しない働き方もその一つです。
また、子育てや介護をしている人が好きな時間に働けるフレックスタイム制や時差出勤など、働く時間の自由度も「働きやすさ」「働きがい」につながるでしょう。副業・兼業を行う人も増えています。これからの企業では、フレキシブルな働き方に柔軟に対応できる環境を作ることが必要です。
ウェルビーイングとは、身体的・精神的・社会的に満たされて良好状態にあることを意味しています。一人ひとり、価値観や「よい状態」と感じるシーンは異なりますが、健康増進・モチベーション管理などが必要です。
従業員のウェルビーイングを高めるための動きは、「働きやすさ」「働きがい」に直結します。また、身体の健康を維持するために企業がサポートをすれば、従業員のためになるだけでなく企業の健康保険の負担も軽減できるでしょう。心身の健康サポートを行い、従業員の働く意欲を向上させることが大切です。
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コミュニケーション不足は、チーム間や部署間での連携がうまくできず、ミスやトラブルを引き起こしやすくなります。また、人間関係の構築ができず、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすかもしれません。業務効率が下がるだけでなく、従業員の離職の引き金となる可能性が高まります。
コミュニケーションが取りやすい環境は、働きやすさを感じられるでしょう。若手社員や経験の浅いスタッフが周囲の先輩や上司に相談しやすく、ミスの早期発見・解決につながります。活発な意見交換行われて、新しいアイデアが生まれることもあります。風通しがよく前向きな雰囲気があり、従業員の「働きがい」にもつながります。
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働きがいを得るには、働く意義を感じられる、自分自身の成長につながるなどの要素が必要であることがわかりました。実際に従業員の働きがいを促進させるには、どのようなことを実践するとよいのでしょうか。ここでは、「働きやすさ」「働きがい」を向上させるための方法を紹介します。
従業員が働きがいを感じている企業では、目標管理を数値で見える化させるといった働きを評価する活動を行っています。このとき、上司のみの判断ではなく、チームメンバーや取引先の視点を含めた多角的な判断が大切です。本人に評価のフィードバックを丁寧に行いましょう。よい点を伸ばしマイナス評価部分は、上司やチーム全体で改善していけるようにサポートしていく風土を作ってみてください。
企業の成長・発展に貢献できる人材を育成し、業績向上をつなげるためにも、しっかりとした人材育成は企業にとって必須項目です。若い世代に限らず、学びの機会を得たいと考える人は多いのではないでしょうか。
しっかりとした人材育成の場が設けられている企業は、働きやすさ・働きがいを感じやすい傾向がみられます。教える側の従業員も、自身の成長につながると感じポジティブに受け取れるでしょう。チーム・部署・企業全体で協力体制を取れるようになります。
人材育成方法にはさまざまな方法がありますが、いくつか具体例を以下に紹介します。
●OJT(On the Job Training):担当の先輩社員の指導を受けながら職場で業務を学ぶ方法。メンター制とも呼ばれ、業務内容の指示・教育だけでなく、仕事上での悩みや不安を打ち明けやすい環境となり若手の早期離職防止につながります。
●Off-JT(Off the Job Training):職場を離れた研修や学習による能力開発のことです。近年ではオンラインでの受講も増えています。企業は、社外研修・学習の受講費用を補助したり、チームや部署での受講促進をサポートします。
●SD(Self Development):「自己啓発」の意味。従業員が自ら研鑽を重ねて、成長するための活動促します。例えば、通信教育や資格取得への補助などがあげられます。
企業理念やビジョンは、わかりやすく明確に言葉で伝えることが大切です。あるいは、オフィスで企業らしさや方向性が見えるデザインを視覚的に用意してもよいでしょう。コーポレートカラーや壁面アートで、表現する方法もあります。
一方で、日常業務を滞りなく行うにあたり「企業ビジョン」は自分に関係ないと考える従業員がいる点には注意が必要です。ビジョンの提示・共有により、束縛されていると感じてしまい、信頼関係を損ねる可能性があります。経営者側から無理に押し付けるのではなく、従業員自らがビジョンに共鳴できるように浸透させることが大切です。
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これまでは、決められた場所に決められた時間に出社して働くことが当たり前でした。しかし、現在は場所や時間に縛られない働き方の需要が高まっています。子育てや介護などの各家庭の事情や、ワーケーションや副業といった新しい働き方にも広く対応できる職場関係が必要です。
テレワーク・リモートワークの導入や出社時には好きな席を利用できるフリーアドレス制を取り入れるなどの、場所を選ばないオフィス作りをしましょう。また、時短勤務や時差出勤・フレックスタイムの導入といった、従業員のライフスタイルに合わせた働き方を提供することも大切です。
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多様化する働き方の変化に合わせた環境作りは、デメリットも生まれます。例えば、場所や時間にとらわれない働き方は、コミュニケーションの取りにくさを感じるかもしれません。チームメンバーや部署同士で顔を合わせることが減り、連絡の行き違いや連携不足によるミスが起こりやすくなります。
チャットやメール、オンライン会議などをうまく利用して、コミュニケーションの促進を図る必要があります。また、ラウンジのような共有スペースを設けて、部署を超えたコミュニケーションを取れるようにするといった工夫をしてみてください。コミュニケーションロスは、人間関係の悪化を招く恐れもあります。働きがいをなくす一因となりかねないため、解決すべき重要なポイントです。
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「働きやすさ」「働きがい」を高めるための環境作りの一環として、オフィスデザインを考えることも重要です。そこで、WORK KITが手掛けた、業務内容に合わせて働く環境を選べるオフィス事例をご紹介します。
頻繁に行われるWeb会議での「場所」「音」の問題を解決するために、静かに集中するエリア・自由にコミュニケーションを取れるエリア・周囲を気にせずWeb会議に参加できる吸音ブースなど、用途に合わせたゾーニングを意識したオフィスです。
自由にコミュニケーションが取れるエリアには可動式のデスクを採用し、多様な使い方に対応できるようになっています。作業内容によって、オフィス内の環境を選べるため働きやすさを感じらえるでしょう。
→事例の詳細はコチラ
これまで固定席として運用してきオフィスビルをリニューアルした事例です。社員数の増加や在宅勤務・オンライン会議の定着化に伴い、業務の目的や内容に合わせて自由に場所を選べる設計になっています。
コミュニケーションスペースには、大きなソファを作り付けました。メンバーの交流を促す開放感たっぷりの空間です。
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自然とコミュニケーションが生まれる、開放的な空間を意識してデザインしたオフィスです。オフィス全体で、やわらかさを感じるカラーコーディネートと素材選びを行い統一感があります。開放感と一体感のバランスが、メンバーの居場所を感じながらも各々の業務にも集中できる雰囲気を作り出しています。
→事例の詳細はコチラ
働き方改革で重要視されていた「働きやすい環境整備」だけでなく、従業員が自ら働く意欲を持ち活動する「働きがい」を持つための環境整備が重要です。
適正な評価制度や人材育成制度だけでなく、多様化する働き方に合わせたオフィスやコミュニケーションを活発化させる空間デザインも求められるでしょう。
従業員の働きがいが増えると、企業価値の向上や業績アップにもつながります。「働きやすさ」「働きがい」を両立して、従業員が生き生きと働けるオフィスに整えてみてはいかがでしょうか。