多くの観光客で賑わう浅草。そこから徒歩圏内にある蔵前は昔、名前の通り沢山の“蔵”が存在していた街。
その街の一角に存在していた蔵(倉庫)を改装しホステルとして現代に再生した人々がいる。駅からはさほど遠くはないが立地が抜群に良いわけではない。それなのにいつも人が溢れていて、様々な国籍や目的を持った人々が行き交う場所となり賑わいを見せている。この場がどのように生まれ、賑わいを見せているのかを知りたくなり、ここを運営する株式会社Backpackers‘ Japanのブランチマネージャーの清水氏に尋ねてみた。
この空間には強い個性が感じられ、それはまるで他との違いを楽しんでいるかのようにさえ感じる。
見渡すと真剣な表情で打合せをしている光景が見られる一方でお酒や食事を楽しんでいる人々、そして足早にチェックインの手続きを行っている人もみかける。存在する人々の理由は違う、しかしそこに不自然さを感じさせないのは空間のマジックなのかもしれない。利用されている家具も見てみると大きさもデザインもバラバラなものが混在しているが自然と馴染んでいる。
ぬくもりのある木の質感と倉庫空間特有の無骨でエッジが利いた雰囲気が良い加減で調和されていた。清水氏いわく、空間作りで大切にされたのが人との話しやすさや距離感のデザインなのだそうだ。高いスツールに腰掛けた人が階段の違う高さの人と自然な目線に落ち着く席があったり、席を集めれば大人数で集まれるソファ空間も1人で壁にもたれかかって座ることもしっくりきたりする。そんな多様なスタイルを受け入れてシェアできる仕掛けが散りばめられていた。
自分という存在の違いをありのまま受け入れてくれる空気感が選ばれた家具や素材を通して表現されていて、国籍も言葉も目的すらも違う人々を心地良く包んでくれているようだ。まるで、違うもの同士を受け入れる準備がここには備わっているかのように感じる。
宿泊者が戻ってくると何気なくスタッフが声をかける『おかえりなさい』の一言。この言葉を聞くとなぜか落着き、宿泊目的でない私も心が安らいだ。また、とにかくゲストとスタッフの心の距離が近いことに気づく。スタッフが利用者のここにいるこの瞬間、価値を大切にしている人達だからこそ共有できる感覚。
清水さんから、この場を運営するBackpackers‘ Japanではユニークな社内制度を実践されていることを聞いた。是非、詳細はHPに掲載されているので探してみてほしい。清水氏の話を聞いて感じたのは体験を通してひとりひとりのスタッフにとって大切な物はなにかを自ら見つけだすことを推奨していて、それが結果としてサービスを提供する側も様々な体験を通して、サービスの受け手としての気持ちを忘れてはいけないという心構えやホスピタリティを養うことにつながっているのだと。オリエンテーションで受けられない、身を持って知るおもてなし。だからこそ旅で養われた経験がここに訪れる人たちにしっかりと還元することができる。この空間が持つ力とたったひとつの言葉で沢山の想いを感じ取る事ができた。
空間をつくるプロセスから公開し共感してくれる人々の協力を得ながらつくられたそう。壁の仕上りひとつまで思い出として共有されていて、つくり手もつかい手もみんなが一緒になれる空気感が漂っている。
空間の中央に鎮座する木のカウンター。これは代表が自らニセコに行って選び抜いたものだそうだ。訪れる人たちはこのカウンターを必ず通る。この木にまるで吸い寄せられるかのように。理念である「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を。」その言葉を具現化した拘りぬいた空間。ここに集まる人たちは五感でその感覚を知る。
清水氏はよく仕掛けという表現をされていた。空間のデザインはあくまで人々が集まれるための仕掛けだと。その先に伝えたいメッセージがあるからこそ、この空間が存在しているのだろう。この場に共感する人々が自然と集まれる場となっていた。
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